歪んだ愛に溺れて

□鍵の無い檻
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家事と簡単な仕事をこなすだけの生活が始まって早二週間。買い物の宅配サービスなんて考えた人物を、私は呪い殺してやりたい。
そんなに離れていない病院に行くのにも臨也が同行してタクシーを使い、静雄や新羅にパソコンからメールを送っていないか定期的にチェックされる。初めはすぐに削除すればいいなんて甘く見ていたが、一度セルティに送って削除してみると、どういう仕組みなのか臨也のパソコンに移るようになっていた。つまり、これも意味無し。
私は、完全に外の世界と壁を作られてしまった。
別に逃げたいとは思わないが、面白味の無い生活に飽きがきた。

そんな私とは反比例に、臨也に笑顔が増えた。
常に自分の目が届く範囲に私がいるのが嬉しいらしく、今まで以上に優しくなった。私のお腹に話しかける臨也なんて見たら、恐らく知り合いは吐き気を訴えるだろう。
だが、臨也が嬉しそうとは言っても、異常なまでの束縛生活はまだ終わりそうにないが。

「ねえ波江さん、どっか行かない?」

臨也が出掛けているので、試しに波江さんに尋ねてみた。
波江さんがキーボードを叩く手を休め、私を一瞥する。

「もしそうしたら、私も貴女もどうなるか解らないわよ」

「そりゃあそうだけどさあ、たまには外の空気を吸いたいんだよ」

「ベランダにでも出なさい。貴女を見張るのも私の仕事なんだから、大人しくしててちょうだい」

そう言って、波江さんは早々と仕事を再開した。
人間という生き物は、窓の無い部屋に閉じ込められるより、外が見える場所に閉じ込められる方が逃走心が高くなる。私は今まさにその状態にあり、生殺しをくらっているようなものだ。
逃げるわけじゃないのだから、少しくらい出してくれてもいいのに。

気を紛らわそうとテレビを点けると、ちょうど羽島幽平主演のドラマの再放送をしていた。
何度か会ったことはあるけど、彼はあからさまに私を警戒していたことを覚えている。私も、こういう掴み所がない人間は苦手だ。
でも、兄弟だけあって静雄に似ていて、嫌でも静雄のことを考えてしまう。


もし私がこの先姿を見せなかったら、静雄は探してくれるだろうか。


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