歪んだ愛に溺れて
□鳩と鴉
2ページ/5ページ
銀座にある有名なジュエリーショップに足を踏み入れる。
落ち着いた雰囲気の店内で、早速店員に声をかけた。
「すみません」
「はい」
「オーダーメイドの婚約指輪を作りたいんですけど」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
棚を覗いていた名前の手をとり、店の奥にあるカウンターへと向かう。向かい側に立つ店員に、カウンターの前の椅子を勧められて座った。
「えーっと、婚約指輪ですね?」
「はい」
不思議そうに俺と名前を交互に見る店員に、名前が苦笑した。
「すいません、兄の婚約相手は仕事で今日本にいなくて。サイズは私と一緒なんで代理で来たんです」
「そうなんですか」
特に打ち合わせもしていないのに、名前からサラサラと出てきた嘘に笑いそうになる。
納得したらしい店員は、カウンターの下からカタログを取り出した。
♂♀
「ふははははははは!」
「臨也、笑いすぎ」
「だって名前の話がやけにリアルだったから!矢霧さんって波江のこと?」
名前は呆れたように溜息をつき、そうだけどとぶっきらぼうに言った。
「咄嗟に思い浮かんだのが波江さんだったんだよ」
「よくあんなに次々と思い浮かんだねえ。波江に言ったら怒るだろうなあ」
「はいはい」
しかし、名前の嘘のおかげで無事に注文ができた。あとは送られてくるデザインの中から気に入った物を選ぶだけだ。
ゴールデンウィーク中ということもあり、銀座の街は観光客やら家族連れで、池袋ほどではないが普段より人が多い。特にこの辺りは有名なブランドの支店が集まっているから、ロゴが入った袋を持ち歩く人ばかりだ。
「名前はどこか行きたいとこある?」
「私は特に無し」
「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ」
昨日ネットで見つけた店が、ちょうどこの辺りにある筈だ。
「なに、服でも買うの?」
「俺のじゃなくて、この子の」
ぽんぽんと名前のお腹に触れると、名前はクスクスと笑った。
「だから、まだ早いって」
,