歪んだ愛に溺れて

□鳩と鴉
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銀座にある有名なジュエリーショップに足を踏み入れる。
落ち着いた雰囲気の店内で、早速店員に声をかけた。

「すみません」

「はい」

「オーダーメイドの婚約指輪を作りたいんですけど」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

棚を覗いていた名前の手をとり、店の奥にあるカウンターへと向かう。向かい側に立つ店員に、カウンターの前の椅子を勧められて座った。

「えーっと、婚約指輪ですね?」

「はい」

不思議そうに俺と名前を交互に見る店員に、名前が苦笑した。

「すいません、兄の婚約相手は仕事で今日本にいなくて。サイズは私と一緒なんで代理で来たんです」

「そうなんですか」

特に打ち合わせもしていないのに、名前からサラサラと出てきた嘘に笑いそうになる。
納得したらしい店員は、カウンターの下からカタログを取り出した。



♂♀




「ふははははははは!」

「臨也、笑いすぎ」

「だって名前の話がやけにリアルだったから!矢霧さんって波江のこと?」

名前は呆れたように溜息をつき、そうだけどとぶっきらぼうに言った。

「咄嗟に思い浮かんだのが波江さんだったんだよ」

「よくあんなに次々と思い浮かんだねえ。波江に言ったら怒るだろうなあ」

「はいはい」

しかし、名前の嘘のおかげで無事に注文ができた。あとは送られてくるデザインの中から気に入った物を選ぶだけだ。
ゴールデンウィーク中ということもあり、銀座の街は観光客やら家族連れで、池袋ほどではないが普段より人が多い。特にこの辺りは有名なブランドの支店が集まっているから、ロゴが入った袋を持ち歩く人ばかりだ。

「名前はどこか行きたいとこある?」

「私は特に無し」

「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ」

昨日ネットで見つけた店が、ちょうどこの辺りにある筈だ。

「なに、服でも買うの?」

「俺のじゃなくて、この子の」

ぽんぽんと名前のお腹に触れると、名前はクスクスと笑った。

「だから、まだ早いって」


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