歪んだ愛に溺れて
□鳩と鴉
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自分と臨也の母子手帳なら、小学生の頃見せてもらったことがある。今手にしている母子手帳はまだ何も書かれていないページばかりで、これから少しずつ埋まっていくのかと思うと自然と笑みが浮かんだ。
ようやく気持ちの整理がついたせいか、素直に喜べる。
「へえ、中はこうなってるのか」
背後から臨也の声がして、右肩に重みが加わる。
「ちゃんと書きなよ?」
「言われなくても書くから」
「あと、車の運転は控えてね。逆子の原因になるらしいよ」
「どこの情報?」
「ネット。そうそう、すっぱい物食べたくなるらしいけど、何か食べたい物ある?」
「特に無いよ」
なんだかんだ言って、一番楽しんでるのは臨也らしい。暇さえあれば、子供服やベビーカーや玩具のブランドを調べている。
こういうこととは無縁だと思っていたが、意外といい父親タイプのようだ。
「赤ん坊ってさ、お腹の中にいても母親の声が解るらしいよ」
「それはまだ早いよ。体の原型がまだ整ってないのに」
「今どれくらい?」
「ちょうど2センチくらい」
「ちっさ」
「でも一人だからね。想像してみなよ。母さんはそれを二人分抱えてたんだよ?しかも二回も」
「父さんも頑張ったよねえ」
「やめて、そっちはあんまり想像したくない。やけに生々しい」
「うん、俺も言ってから思った」
でも、改めて考えると確かに母さんは凄い。双子を二回も産むなんて、自分が妊娠してみるとどれほど大変か解った。
――生まれてきたのは、みんな欠陥品ばっかだけどね……。
ぱたりと母子手帳を閉じ、デスクの上に置いた。
それを見ていた臨也が、そう言えばと口を開く。
「父さんと母さんには、いつ言うの?」
パソコンのマウスに延ばしかけていた手を止め、充電ホルダーに挿している携帯に目を向ける。
「今夜あたり……電話してみる。今日、誕生日だし、たぶん向こうからかかってくるだろうけど」
「そっか。……俺も、一緒にするから」
あの二人は、妊娠したけど結婚しないと言ったら怒るだろうか。いや、ここ数年まともに家族らしい会話はしていないし、怒るとまではいかないかもしれない。好きにしろ、が有力だ。
「まあいいや。それより、そろそろ行かない?」
「うん、そうだね」
昨日臨也に提案された指輪を買うべく、ゆっくりと立ち上がった。
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