歪んだ愛に溺れて

□ベールを被せて
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呼出音を聞いている間、恐くもないのに手が震えていた。
ブチリ、と特有の音がした瞬間は、肩が震えた。

『……もしもし?』

数日ぶりに聞いた心地いい低い声に、また涙が出そうになった。

「……静雄……」

『おい、どうしたんだ?』

あんなことをしたのに、以前と同様に接してくれる静雄に、また罪悪感がつのる。

「我儘ばかり言って悪いんだけど、今日、会える?」

『ああ、今日は午前で上がりだからな。昼からならいいぜ』

「じゃあ……1時にこの前の喫茶店で待ってる」

『……分かった』

三分にも満たない通話だったのに、心臓はマラソンを走り終わった後のように忙しなく動いている。

――静雄は……喜ぶのかな……。

――もし本当に静雄の子だったら……。

「どうしたの?名前」

いきなり背後から臨也の声がして、一瞬で静雄の事が頭から消えた。
ドアに背を向けてベッドに座っていたため、全く気付かなかった。
驚いて反応が遅れているうちに、ギシリと重みが加わったベッドが音をたてる。

「寝てなくていいの?」

後ろから回された臨也の手がお腹の上で重ねられて、背中から体温が伝わってきた。耳元で囁かれた甘い声も、状況が状況なだけに背筋に寒気が走るような冷たさに変わる。

「ねえ名前、黙ってちゃ解らないよ」

「……昼から……池袋に、行ってくる……」

どうせ臨也のことだから最初から聞いていたのだろう。私が静雄と口に出したことも知っている筈だ。

「シズちゃんに言うんだ?」

――……やっぱり。

臨也の手に力が入って、後ろに引き寄せられた。

「名前も酷いことするねえ。そんなの、シズちゃんに無駄な希望を持たせることにしかならないよ?」

「それでも、言わないと。これは私達だけで決められることじゃない」

「……否定はできないね」

肩に臨也の頭がのせられて、首筋に柔らかい感触が当たった。
何かにすがりつくように私を抱き締める臨也は、やはり以前とはどこか違う気がする。

「臨也……」

「ん?」

「……臨也は私から離れていかないよね?」

愛想をつかされたらどうしようと不安になり、普段は言わないようなことを言葉にした。
やはり意外だったようで、臨也は数秒間黙ったままだった。漸く聞こえてきたのはクスクスと笑う声で、不思議とそれだけで安心できた。

「俺が名前から離れるわけないでしょ。どうしたの?急に」

「特に意味はないけど……」

視線を下ろし、臨也の手を見つめてから思い付いた事を言ってみた。

「敢えて言うなら……」









「マタニティーブルー……かな」









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