歪んだ愛に溺れて
□贖罪
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それは、5月に入ったばかりのことだった。
「……大丈夫なの?」
珍しく波江さんが心配そうに尋ねてきた。
ソファに寝転んでいた私は、目を覆っていた左手を下ろして波江さんを見上げた。
「あまり大丈夫とは言えないかな」
「症状は?」
「微熱が続いてるのと胸焼け。気持ち悪い、そして眠い」
「生理?」
「いや、違うけど。寧ろ先月から来てない」
波江さんは眉をひそめると、溜息をついて首を横に振った。
「貴女、鋭そうに見えて意外と鈍い所もあるのね」
「はあ?」
体を起こし、再び波江さんを見上げる。
波江さんは本当に解らないのかと言った様子で、携帯で時間を確認した。
「私は医学には詳しくないし、あの闇医者に聞いてみるといいわ。臨也の奴が帰ってくる前に」
「……波江さんが先に教えてよ」
そんな言い方をされると余計に気になる。
波江さんはじっと私を見下ろし、独立した一人用のソファに腰かけた。
「これは可能性でしかないことだし、一概にそうとは言い切れないのだけど……」
「なに、波江さんにしては珍しく遠回しな言い方だね」
「事前に言っておいただけよ」
波江さんは短く息をつくと腕を組んだ。
「貴女が言った症状で一番当てはまりそうなものだけど……」
波江さんの目が、咎めるように鋭い眼光を放ちながら細められた。
「貴女、恐らく妊娠してるわ」
「……妊娠?」
普段よく聞く言葉なのに、何故か今は現実味が感じられない。
「なにそれ……」
「そうとは限らないけれど、さっきも言ったように早く医者に診てもらった方がいいわ。本当だったらいろいろと大変なことになるだろうから」
「……」
波江さんの最後の言葉が、ずしりと胸の奥につっかえた。
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