歪んだ愛に溺れて

□最果て
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温もりを感じて目を開けると、腕の中には静かに眠る名前が居た。
昨日のことを思い出し、悦びで顔が綻ぶ。
いつもは目を覚ますと既に名前は帰ってしまっていることが多く、名前の寝顔を見るのも久しぶりだ。化粧をしていない名前は、高校の時からほとんど変わっていないように見える。
4月下旬と言えどまだ朝は肌寒く、肩の下まで下がっていた布団を引き上げ、更に名前を抱き寄せた。

「ん……」

名前の瞼が震えて、胸の前にあった手が俺のシャツを握りしめた。稀に見る妹らしい一面に、無意識に頬の筋肉が弛む。
小5の頃初めて部屋が別れた時も、こうしてよく親に内緒で一緒に寝ていたことを思い出した。九瑠璃と舞流のように同性じゃなくて良かったが、あの頃はいつもぴったりとくっついているあの二人が少し羨ましかった。
今までの辛かった思い出が次々と頭の中を流れていくが、やっと望んでいたことが実現して、それらが取るに足らないことだったと思えてきた。

「名前……好き」

何度も何度も言ってきたその言葉は今も色褪せず、寧ろ日に日に鮮やかになっていく。許されないことだとは知りながら、それでも離れることはできなくてお互いを求め合ってしまうのだ。

――そしてそれこそが、俺達に残った唯一の人間らしい感情……。

「ん……いざ、や?」

長い睫毛が揺れて、その下から赤い瞳が現れる。
寝起き特有のうっとりとしたような視線に、心臓が収縮したように感じた。
外気で冷たくなった頬を手で包み込むと、名前がふわりと微笑んだ。

「おはよう、名前」

「おはよ、臨也」

名前の髪に顔を埋めると、甘い香りがした。そのまま頭にキスを落とし、背中を撫でる。

「珍しいね、臨也が先に起きるなんて」

「俺もそう思った」

「もうすっかり元通りってわけか」

「昨日はごめんね」

いいよ、と、名前の腕が胴に絡み付いてきた。負けじと抱き締めると、胸の辺りからクスクスと笑い声が聞こえてきた。

「臨也、フレンチトースト食べたい」

名前が甘えてくるなんて珍しい。
かわいいなあ、と心中で呟き、名前の額にも唇を寄せた。


「あとちょっとだけ、このままでいたい……」



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