歪んだ愛に溺れて
□脆弱な心臓
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粟楠会から送られてきたメールに目を通すが、先日の新羅の話のせいで仕事に集中できない。
完全に頭に入ったわけではないが、目が疲れてきて背凭れに体重を預けた。
「波江、コーヒー」
溜息をつきながらも無言でキッチンへと向かう優秀な秘書を見送る。そのまま天井へと視線をずらし、深く息を吐いた。
「何を悩んでるかは知らないけれど」
コトリと音がして、ティーカップが前に置かれた。
「仕事の時くらい忘れてちょうだい」
「それができたら苦労しないよ」
コーヒーを一口飲み、充電ホルダーから携帯を抜き時間を確認する。
まだ昼前だ。
時間が経つのが異様に遅く感じる。
「またあの娘のことなの?」
ウンザリした様子で、波江が冷たい目でこっちを見てくる。
「だったら何?」
「どうせ、今度はいつ会えるのかなんて考えているんでしょ。私からしたら贅沢な悩みだわ」
「……そんなに簡単なことじゃないよ」
携帯をデスクに置き、イスを回転させてパソコンに向き直った。
「波江はさ、弟君が他の女と結婚しようとしたらどうする?」
「勿論、なんとしてでも止めるわ」
本当に想像したのか、波江の声には棘があった。
「まあ、確かにそうなるよね」
右手で左手の指環を撫で、腕を延ばし背伸びをした。
反動をつけてイスから降り、携帯とコートを取る。
「ちょっと池袋行ってくる」
「はあ!?何がちょっとよ」
「はいはい」
波江が文句を言う前にコートを羽織り、急いで玄関に向かった。
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