歪んだ愛に溺れて
□蕀の王冠
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徹夜続きの重い体を無理矢理起こす。カーテンの隙間から漏れる朝日は、まだそんなに強くなかった。
一度背伸びをし、波江が来るまでに朝食を済ませてしまおうと部屋を出た。
が、ドアを開いた瞬間いい匂いが鼻腔を擽った。朦朧としていた脳がいっきにシャキッとする。
小走りで階段を降り、キッチンへと向かう。案の定、そこには黒いエプロン姿の名前がいた。
「名前!」
「あれ、もう起きたの?おはよ」
少し驚いている名前に、おもいっきり抱きついた。
一週間ぶりの温もりに、疲れが吹き飛んだ。
「臨也、危ないよ」
「あ、ごめん」
冷静になって、名前が味噌汁を作っている最中だと気づく。代わりに、料理をしている名前の腰に後ろから腕を回した。
首を捻って見上げてきた名前が溜息をつく。
「あんた達は揃いも揃って……」
「え?」
「いや、なんでもない」
曖昧な返事をして、名前は料理を再開した。
「どうしたの?こんな朝早くから」
「一週間も会ってなかったから急に会いたくなって、始発で来た。あと仕事のこともあるし」
始発で来るぐらい会いたかったと聞いて胸が熱くなり、更に腕に力を入れた。
「そんなこと言われたら、仕事する気なくなるなあ」
「なら言わなきゃ良かった。今何時?」
時間を尋ねられて、ズボンのポケットから携帯を取り出した。
「今は6時58分」
「じゃあ、味噌汁見てて」
名前はそう言って、スルリと器用に俺の腕から抜けた。
言われた通り、玉じゃくしでぐるぐると鍋を混ぜる。
「あ、舞流起きた?味噌汁と卵焼き作っといたから、温めて食べてね。ちょ、叫ばないでよ。学校遅れないようにね。もう切るよ?……解ったから、ちゃんと起きてよ?」
双子へのモーニングコールを終えた名前は、疲れた様子で戻ってきた。
「はい、ありがと」
名前に玉じゃくしを渡して、新聞を取りに行こうとキッチンを出た。
「あんな奴らほっとけばいいのに……」
俺の小さな呟きは、玄関の扉が閉まる音に掻き消された。
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