歪んだ愛に溺れて
□変わらないもの
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「名前!」
名前を呼ばれて振り向いた瞬間、懐かしい香水の香りに包まれた。
「おかえり、名前」
「ただいま、臨也」
茶色いファーが頬に当たってくすぐったい。それでも、1ヶ月も会えなかったということもあり暫くそのまま抱き合っていた。
しかし周囲の視線に気づき、名残惜しそうに臨也が体を離した。
「疲れたでしょ?大丈夫だった?」
「大丈夫大丈夫。マフィアと言えど、やっぱりイタリア人はみんな紳士だったから。観光案内までしてくれたよ」
頼まれていた仕事の交渉もスムーズに終わり、半分は観光のようなものだった。
「そっか、良かった」
臨也は然り気無く私の手に指を絡めた。
「さ、早く帰ろう。うちに泊まって行くよね」
最早疑問形でもない臨也の問いに、勿論と頷いた。
♂♀
黒縁の眼鏡をかけて運転モードに入った臨也。
「じゃあ出発」
チュッと一度私の頬にキスしてから、臨也はエンジンをかけた。
「ダラーズの初集会があったんだってね」
「うん。君も創始者様に会ってみるといい。おもしろい子だよ」
「へぇ……」
ネットの中でしか話したことがない少年と、手に入れたその少年の写真を思い浮かべる。見たところどこにでもいる子だった。
「大きい組織のトップに立つような子には見えないけど」
「……なんだ、知ってたんだ」
「まあね。ああ、あと矢霧波江と首だっけ。私も特等席で見たかったなあ」
流れていく景色を見ながら、もっと早く帰ってくればよかったと後悔する。
「待っててよ」
信号で止まった臨也が、悪どい笑みを浮かべた。
「もっとおもしろくなるからさ。名前に見せてあげるよ、特等席で」
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