歪んだ愛に溺れて

□涙は既に枯れた
2ページ/6ページ



ゆっくりと瞼を開けると、ベッドの横の椅子で新羅が本を読んでいた。私が起きたことに気づき、分厚い医学書を閉じる。

「おはよう。よく眠れたかい?」

「……またあの夢をみた」

「そっか……」

鉛の様に重い体を動かし、上体を起こす。時計を見ると7時半を指していた。

「お腹空いてる?」

「あんまり空いてないけど、食べなきゃいけないんでしょ?」

昨夜、新羅から鉄分を補う薬を渡された。貧血防止の為らしい。

「薬を飲む為にはお腹に何か入れないといけないからね。朝御飯作るよ」

立ち上がって部屋を出ていった新羅を追い掛け、リビングに向かう。
そこにはテレビを見ているセルティがいた。

「あれ、帰ってきてたの?」

『ああ。少し前にな』

「ごめんね、休みなのに邪魔しちゃって」

私の言葉を否定するように、首から出ているセルティの影が揺れた。

『理由は新羅から聞いた。大丈夫か?』

「まあね」

帰りにくくなったけど、と付け足す。
と言うよりは、帰るタイミングが解らない。今は会わせる顔なんてないし、言い訳もできない。

『うちならいくらでも居てくれて構わない。だけど……お兄さんが心配してるんじゃないか?』

「……さあ、どうだろうねえ。臨也のことだから、私がどこに居るかくらいもう解ってるんじゃない?」

解ってはいるけど、会いに行く勇気がないって所だろう。
たださえあんなに酷いことを言ったのだ。臨也は本当に心配してくれていたのに。

もしかしたら、今度こそ嫌われたかもしれない。




そうなったら、楽になれるのだろうか……。




,
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ