歪んだ愛に溺れて
□涙は既に枯れた
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ゆっくりと瞼を開けると、ベッドの横の椅子で新羅が本を読んでいた。私が起きたことに気づき、分厚い医学書を閉じる。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「……またあの夢をみた」
「そっか……」
鉛の様に重い体を動かし、上体を起こす。時計を見ると7時半を指していた。
「お腹空いてる?」
「あんまり空いてないけど、食べなきゃいけないんでしょ?」
昨夜、新羅から鉄分を補う薬を渡された。貧血防止の為らしい。
「薬を飲む為にはお腹に何か入れないといけないからね。朝御飯作るよ」
立ち上がって部屋を出ていった新羅を追い掛け、リビングに向かう。
そこにはテレビを見ているセルティがいた。
「あれ、帰ってきてたの?」
『ああ。少し前にな』
「ごめんね、休みなのに邪魔しちゃって」
私の言葉を否定するように、首から出ているセルティの影が揺れた。
『理由は新羅から聞いた。大丈夫か?』
「まあね」
帰りにくくなったけど、と付け足す。
と言うよりは、帰るタイミングが解らない。今は会わせる顔なんてないし、言い訳もできない。
『うちならいくらでも居てくれて構わない。だけど……お兄さんが心配してるんじゃないか?』
「……さあ、どうだろうねえ。臨也のことだから、私がどこに居るかくらいもう解ってるんじゃない?」
解ってはいるけど、会いに行く勇気がないって所だろう。
たださえあんなに酷いことを言ったのだ。臨也は本当に心配してくれていたのに。
もしかしたら、今度こそ嫌われたかもしれない。
そうなったら、楽になれるのだろうか……。
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