歪んだ愛に溺れて
□流れ行く紅
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――それにしても暑いなあ……。
右手で影を作って、快晴の空を見上げる。もう一度校舎を見たが、既に臨也はいなかった。
「名前、次休みだってー!日陰行こー!」
「はーいっ!」
友人のいる方に足を向ける。
その瞬間、地面と視界がグニャリと曲がった。
フワリと体が浮いたような感覚に陥る。
「ぁ……」
そこで私の意識が途切れた。
♂♀
「名前!」
保健室に飛び込むと、ベッドの横に立っていたシズちゃんと新羅が振り返った。
「……名前は?」
「寝てるよ」
ベッドに近づくと、蒼白い顔色の名前が静かな寝息をたてていた。白いシーツに、光を吸い込むような漆黒の髪が散らばっている。
「貧血だって。体育をしてるときに倒れたらしい」
「……そう……」
「今日はもう帰った方がいいって。先生が車を回してくれてる」
名前の額に触れると、ヒヤリと冷たかった。
「俺、荷物とってくるわ」
シズちゃんはそう告げて、保健室を出ていった。
「……静雄はよっぽど名前ちゃんが好きなんだね」
「は?」
自然と声のトーンが落ちる。
「化け物にはそんな感情いらないだろ。どうせ名前の遊びなんだ。すぐに棄てられるさ」
「本当にそうかな?」
新羅は薄い笑みを貼り付けたまま俺を見た。
レンズの向こうの目が光る。
「この二人、結構お似合いだと思うよ?静雄といるときの名前ちゃん、演技じゃなくて自然体になってきた気がするんだ」
「そんなことある筈ないだろ!……あ」
つい大声をあげてしまった。
視線を落とすと、名前の瞼がゆっくりと開いた。
「ん……いざや……?」
「名前、大丈夫?」
上体を起こそうとした名前の背中を支える。
「まだフラフラする……」
「先生が家まで送ってくれるらしいから、ちゃんと休みなよ」
「うん……」
ガラガラとドアが開く音がして、先生とシズちゃんが入ってきた。
「あら、起きたの。折原君、これ折原さんの制服ね」
紙袋に入ったセーラー服を受けとる。
「さて、昇降口まで歩ける?」
「はい、たぶん大丈夫です」
ベッドから立ち上がった名前は足がフラフラで大丈夫そうには見えなかった。
すると、シズちゃんが名前の荷物を差し出してきた。
「持っとけ」
「え……ああ、うん」
シズちゃんは俺に荷物を預けると、名前の前にしゃがみこんだ。
「ほら、乗れ」
「え、私重いよ?」
「重いわけねえだろ。よいしょ」
「わっ、ちょ!」
シズちゃんは半ば強制的に背負い上げた。
シズちゃんの首に抱きつく名前を見て、胸が痛んだ。
「優しい彼氏ねえ。羨ましいわ」
「先生にはあげませんよ」
「お、おい!バカなこと言うなって!」
「あ、静雄顔赤い」
遠ざかっていく三人の声。
「臨也……行くよ」
新羅が心配そうに俺の肩を叩いた。
「……ああ」
そのあとも、名前の嬉しそうな笑顔と声が頭から離れなかった。
――名前の隣は……俺なのに……。
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