歪んだ愛に溺れて
□パステルカラーの愛憎劇
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おかえり、と言った臨也は、一目で怒っていると解った。ソファに座って腕を組み、リビングに入ってきた私を睨む。
「どこ行ってたの?」
「ちょっと、彼氏と別れてきた」
「その彼氏って……あの建設会社の息子?」
「そう。バッサリとフってやった」
一瞬だけ臨也の顔に安堵の表情が浮かんだのを、私は見逃さなかった。
しかしそれは本当に一瞬で、すぐに不機嫌になる。
「だからって、今何時だと思ってるの?」
壁に掛かっている時計を見ると、針は23時過ぎを指していた。
「電話しても出ないし」
「え、嘘!?ごめん、気付かなかった」
これは嘘。
本当は、わざと出なかっただけだ。
慌てて携帯を確認するフリをしていると、臨也が立ち上がる音がした。
顔を上げると同時に抱き締められる。
「あんまり心配させないでよ……」
耳元でか細い声が聞こえた。
「ごめん……」
そう言って、臨也の背中に手を回した。
恍惚とした気分が身体中に広がる。
臨也は私のことを心配して待っていてくれた。
それだけでも、幸せだった。
「名前は女の子なんだから、夜に一人で出歩いたら危ないだろ」
「ちゃんとナイフ持ってるよ?」
「それでも、集団で襲われたらいくら名前でも勝てる筈ないじゃないか」
「……うん……」
頭を撫でる臨也の手が心地いい。
「次からは、ちゃんと連絡して」
「わかった……」
私が頷くと、臨也は体を離した。
「俺、先に寝るから。……おやすみ」
「おやすみ」
リビングを出ていく臨也の背中を見送り、私は携帯を開いた。
電話帳を開き、さっき別れた男のデータを削除した。
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