歪んだ愛に溺れて

□記憶
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「僕、名前ちゃんのこと好き!」

小学4年生の夏。
私は初めて告白というものをされた。
それは、同じクラスの男の子だった。
そこまで親しいというほどではなかったが、よく話はしていた。まさか自分がそんな風に思われているとは予想もしていなくて、正直最初は戸惑った。

「名前ちゃんは、あの、好きな子とかいるの?」

呆然と立っていた私に、その子がそう言った。
そして浮かんできたのは……臨也の顔だった。
自分でも驚いた。
何故ここで臨也が浮かぶのか、と。
暫く経ってから気付いた。
私は臨也のことが好きなのだと、その時初めて自覚した。

「名前ちゃん?」

「……ごめんなさい。好きな人……いる……から……」

私はしどろもどろにそう答えた。
私はいろんな人が好きだった。
優しい人も性格が悪い人も、綺麗な人も醜い人も。
だけど、臨也だけは何かが違った。
いつも一緒にいたから気付かなかっただけで、本当はずっと臨也を“特別”だと思っていたんだ。



♂♀



教室に戻ると、臨也が私の席の前にいた。
私を見て、ふわりと微笑む。

「帰ろ、名前」

「……うん」

臨也は私がランドセルを背負うのを待って、いつものように手を繋いだ。
好きだと認識してしまった私の脈がいっきに速くなる。

――お兄ちゃん……なのに……。

「……お兄ちゃん」

小さく呟くと、少し前を歩いていた臨也が振り返った。

「なに?どうしたの?」

夕日に照らされた臨也の横顔は、女の私から見ても綺麗だった。

「えっと……なんでもない」

「そう」

右手に温もりを感じながら、さっきよりも小さい声で呟いた。

「……いざや……」

初めて名前で呼んだその声は、臨也には届かなかった。
その日から、私は臨也のことをお兄ちゃんと呼ぶのをやめた。

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