歪んだ愛に溺れて

□俺と片割れ
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「ただいま」

とは言ったものの、九瑠璃と舞流はまだ帰ってきてないだろうから、返ってくる声なんてあるはずがない。
今日新しく脇腹に出来た痣を庇いながら靴を脱ぐ。

――と、そこで体が止まった。

玄関に女物のスニーカーがあった。
九瑠璃と舞流の物ではない。

――だとしたら……。

俺は靴を脱ぎ捨てて、リビングに走った。

「あ、おかえり臨也」

そこにいたのは、ずっと会いたかった愛しい人の姿。

「……名前……」

名前はニッコリと微笑んだ。

「ただいま、臨也」

怪我の痛みなんか忘れて、すぐに名前を抱き締めた。

「おかえり名前」

背中に回された腕が、これは夢じゃないと物語っていた。

「あはは、臨也背が伸びたね」

「名前は髪が伸びたね」

1年前は肩までしかなかった黒髪が、胸の下くらいまで伸びていた。そのせいか、大人びて見える。

――……ていうか……。

「なんで帰ってきたの?」

名残惜しいが、一旦離れて尋ねる。
名前はニヤリと笑った。

「あの学校辞めたんだ。ということで、来週からは来神に通うことにしたから」

「は?」

喜びより前に、疑問がわき上がってきた。

「辞めた?なんで?」

名前は口を尖らせてソファにダイブした。クッションを抱えて俺を見た。

「教師と付き合ってたんだけどさ、ちょっと危なくなってきたから辞めた。勉強ばっかでつまんなかったし」

「……そう」

聞かない方が良かったのかもしれない。

――とうとう教師にまで手を出したのか。

まあ理由はどうであれ、これからは名前と暮らせる。その嬉しさで、胸がいっぱいになった。

「だからさ、臨也、荷物部屋まで運んで?」

「相変わらず人使い荒いなあ」

名前の頼みならしょうがない。
俺は言われた通りに名前の部屋に荷物を運び入れ、掃除も手伝った。


♂♀



「イザ兄、ナマエ姉、おやすみなさーい」

「寝(おやすみなさい)」

「おやすみ」

二段ベッドに入る二人の頭を撫でて微笑む名前を見て、改めて名前が帰ってきたということを実感する。
ドアをそっと閉めて、俺達も自分の部屋に戻った。

「じゃ、おやすみ臨也」

「おやすみ名前」

名前が部屋に入るのを見届けて、俺も部屋に入った。
ベッドに倒れこんで、もう一度呟いた。


「おやすみ名前……」

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