非日常症候群

□よ
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桜の花弁が舞い落ち、アスファルトが桃色に侵食されている。
その上を人や車が通り、綺麗だった花弁も茶色くなっていく。雨が降れば、更に汚れてしまうだろう。
その後は毛虫地獄。
桜は咲いている間が華だ。いや、ダジャレとかじゃなく。

「学校ってさ、なんで桜植えるんだろうね」

隣を歩いていた静雄に問いかけると、彼はちょうど頭上にある桜の木を見上げた。

「……こういう時のためじゃね?」

「ああ、成程」

「あ!静雄君!名前ちゃん!」

背後から名前を呼ばれ、静雄と共に振り返った。
大きく手を振りながらこっちに向かってくる人物に気付き、声をあげる。

「おお!新羅じゃん!」

小学校ぶりだが、新羅は相変わらずの様子だ。
静雄は散々解剖させてくれと迫られていたため、少し複雑な表情をしている。
新羅は追いついてきて、横に並んだ。

「また会えて嬉しいよ。二人とも変わってないね」

「新羅こそ。あ、セルティは元気?」

「元気元気!また遊びに来てよ。セルティもきっと喜ぶ」

「うん!」

会話を切って前を見ると、校舎の前にクラス分けが書かれている紙が貼りだされていた。その前に人だかりができている。
少し待ってから見ようと何気なく上を見ると、ガラス張りの廊下に立ってこっちを見下ろしている人物に気付いた。指定の制服ではなく、赤いシャツに黒い学ランを着ている。
その人も私に気付き、目が合った。
何をするでもなく、ただ見つめ合う。
言葉では言い表しにくいが、不思議な空気を纏っている人だった。

「名前?」

「……え?」

静雄に呼ばれて、意識が引き戻された。

「行くぞ」

「あ、うん」

もう一度見上げたが、もうそこには誰もいなかった。


♂♀



残念ながら静雄とも新羅ともクラスは離れてしまったが、同じ中学だった知り合いもいたし、今日新しく友達も増えた。最初は不安だったが、なんとかやっていけそうだ。

「ただいまー」

自宅であるマンションの玄関を開け、中に向かって言ってみる。しかし、おかえりという返事はなかった。
スリッパに履き替えてリビングに行くと、メモが一枚とお小遣いであろうお金がテーブルの上に置かれていた。メモには、入学おめでとうという言葉と、冷蔵庫の中にケーキが入っているということ、そして父も母もまた仕事で海外だということが書かれていた。
これで、また数日はこの広いマンションに一人きりというわけだ。

「ま、いいんだけどね……」

そう口に出して、お金だけ財布に移し自分の部屋に向かった。

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