夜に綴る物語
□とりあえず、一発殴ってもいいですか?
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うん……。
勢いで単独行動するとか言ってしまったが、
「収穫なーしっ!」
手掛り?
ないない!
情報?
皆無!
江戸にいる気配?
んなもん分かんねぇよ!
いつの間にか、今日という日ももうすぐ終わろうとしている。
「どうすればいいのよ……」
とぼとぼと家に帰る。
なんで!?
かなり頑張ったんだよ!?
あちこち走り回ったんだよ!?
ちょっとぐらい情報ちょうだいよぉ!
もしかして、ザキの間違いじゃないの?
「誰か私に生きる力を……」
「呼んだ?」
「……え?」
今、声がしたような気が。
幻聴だろうか。
確認したが、周りは誰もいない 。
「空耳?」
「空耳じゃないヨ」
空気が揺らぎ、風もないのに髪が舞い上がる。
次の瞬間には、私は背後から抱きつかれていた。
「久しぶり、名前」
「えっ!?……神威?」
聞き覚えのある声に名前を呼ぶと、耳元で小さく笑う声がした。
「正解」
背中の温もりが消えて、私の正面に神威が移動した。
神威がニコッと笑う。
「駄目だヨ、女の子がこんな時間に出歩いちゃ」
「私は大丈夫だから。ていうか、なんでいるの?」
「名前が呼んだから」
「え?呼んでないし」
「さっき叫んでたでしょ。誰か私に生きる力をって」
「それは言ったけど、神威とは言ってないし」
「誰かってことは、俺でもいいんでしょ?俺、ずっとこの上で待ってたんだけど」
そう言って、私の家の屋根を指さす。
「なんでうちを知ってるの!?」
「アンテナで探した」
「そんなことに使うものなの?」
神威の頭からはえているアンテナもといアホ毛を、おもいっきり引っ張ってやる。
「痛い痛い!嘘嘘冗談だヨ!ごめんって!」
「で、本当は?」
「人に訊いたら教えてくれた」
「よろしい」
パッとアンテナを放すと、神威は心配そうにアンテナを撫でた。
「それで?何か用?」
「今日泊めて」
「はい?」
「ほんとは名前の顔見たらすぐに帰るつもりだったんだけど、名前が遅いからこんな時間になったんだヨ。だから、今日泊めて」
「……ずっと待っててくれたの?」
「うん」
「なんで?」
「名前に会いたかったから」
恥ずかしげもなく神威がそんなことを言うもんだから、血が顔に集中してきた。
「……ごめん……遅くなって」
「べつに謝らなくてもいいヨ。俺が勝手に来たのが悪いんだし」
「いやいやいや!この前助けてもらったんだから!」
少しでも恩返しができれば、と神威を家の中に招いた。
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