夜に綴る物語
□ストーカーじゃありません。
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真選組を出たその足で、私は万事屋に向かった。
「銀さーん!入るよー!」
一応一言声をかけたが、返事を待たずに万事屋に入る。
「おい、なんだなんだ?」
銀さんはソファに寝転び、一人でジャンプを読んでいた。
神楽と新八の姿はない。
「神楽と新八は?」
銀さんはソファに座りなおし、あくびをしてのんびりと言った。
「神楽は定春の散歩で、新八はお通ちゃんのアルバム買いに行ったぞ。で、いきなりなんだ?」
「あのさ……銀さんだけに言っておきたいことがあるんだけど……」
銀さんは重要な話だと悟ったのか、ジャンプを机に置き、向かい側に座るよう目で促した。
私が座ると、銀さんが先に口を開いた。
「何かあったのか?」
「私、暫くの間単独行動をすることになったの。それでね、私に何かあったら……銀さんに後のことを頼みたくて」
「おいちょっと待て。どういうことだ?危険なことなのか?」
私は正直に頷いた。
心を落ち着かせ、まっすぐに銀さんの目を見る。
「高杉が……江戸に帰ってきたの……」
「……マジか?」
銀さんの表情が曇った。
「だから、情報を集めようと思って。向こうが仕掛けてくる前に、なんとかしないと」
銀さんが、いつになく真剣な顔になる。腕を組み、諭すような口調で言った。
「お前が決めたことなら、俺は何も言わねぇよ。でもな……お前、まだ高杉のことを、忘れられてないんじゃねぇか?」
「え……」
思わず視線を下げてしまった。
「それは……」
「まだ、ふっきれてねぇんじゃねーか?」
自分で自分に問い直し、顔を上げる。
「……分からない……」
高杉は私の人生に、最も影響を与えた人物だ。
いい意味でも、悪い意味でも……。
「忘れられたかは分からない。でも、乗り越えられたのは本当だから。昔ばかり振り返ってられない。私は今を大切に生きたい」
「……そうか」
銀さんが腰を上げる。大きな手が延びてきて、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。
「大きくなったな、名前。昔はピーピー泣いてたくせに」
「それは余計だよ」
照れ隠しのつもりで、少し強がる。
手櫛で乱れた前髪を整え、私は立ち上がった。
「そろそろ行くね」
「おお」
銀さんは再びジャンプを手に取り、読み始めた。
「気ィつけて行けよ」
玄関に向かおうとした背中に、銀さんの言葉が投げかけられる。
その一言が、温かくて、優しくて、安心できて……。
「はい、銀兄」
ついつい、小さい頃みたいに呼んでしまった。
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