夜に綴る物語

□ストーカーじゃありません。
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鉄の床に足音が響く。
地球を離れてすぐ、本船から招集がかかったのだ。団長会議なんて滅多に開かれないから、本船に来るのも久しぶりだ。

「面倒くさいことするネ、上の連中も。いっそのこと、全員殺しちゃおうかな」

「今日はやめとけぃ。例の女に会えなくなっても知らねぇぞ」

「……それもそうだネ」

名前に会えなくなるのは困る。
早く終わらせて、さっさと帰りたい。

「よう小僧。お前も団長なのか?」

「は?」

前方から、いきなり低い声が聞こえてきた。
続いて一人の男が現れる。
紫色の着物に、煙管。どう見ても春雨の奴じゃない。

「誰?あんた」

紫煙を吐き出し、その男は口角を上げた。

「鬼兵隊の高杉っつーもんだ。春雨と手を組ませてもらうことになった。よろしくな」

「ふーん」

春雨の同盟関係については興味ない。
長引かせたくないので、早々に会話を切り上げた。

「失礼するヨ。阿伏兎、行くよ」

「おっと、待ちな」

通り過ぎようとしたとき、腕を掴まれた。

「なんだい?」

「匂いがする」

「は?匂い?」

高杉という男はにやりと笑った。

「椿の匂いだ」

「椿?……ああ……」

恐らく、名前の移り香だろう。自分では気付かなかった。

「それがどうかした?」

「女のとこにでも行ってたのか?」

「あんたには関係ないだろ」

「いや、あるんだよ」

高杉はまた紫煙を吐き出し、静かに言った。

「この匂い、名字 名前だろ」

「……なんで知ってんの?」

「ふっ、当たりか」

高杉は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「言っとくがな、名前は俺の女だ」

「なに言ってんだヨ……」

頭が追いつかない。
この男は何を言っている?どうして名前を知っている?
俺が黙っていると、高杉は言い聞かせるようにはっきりと口にした。

「名前は、俺の女だ。訳あって離れてるがな。お前、吉原に行ってたんだろ?そこで名前と出会った。違うか?」

俺が言い返せずにいると、高杉は得意気に笑った。

「次会ったら名前に伝えてくれ。……もうすぐ迎えに行く、ってな」

高杉はそう言い残し、俺達とは反対の方に歩いていった。








「大変です大変です!」

「ん?」

任務もない昼下がり。
昼寝をしている総悟のお腹を枕にして昼寝をしていると、すごい勢いでザキが走ってきた。
ガバッと起き上がって、座りなおす。
素振りをしていた近藤さんと、煙草を吸っていた土方さんも集まってきた。

「どうしたの?」

「あっ、あっ、あの!」

「落ち着きなせェ。何があったんでィ?」

総悟がアイマスクをずらして尋ねた。
ザキは息を整えながら、切れ切れに言った。

「いまっ、は、入ってきた情報でっ!た、高杉がっ、鬼兵隊を率いてっ、江戸に、か、帰ってきたと!」

「なんだと!?」


……嘘でしょ……?
高杉が……帰ってきた……?
あの高杉が……。
かつて仲間と……恋人と呼んでいた一人の男の顔が浮かぶ。
鬼兵隊のトップ、高杉晋助……。



「おいおいマジかよ」

総悟の声で、我に返った。

「あの高杉がねェ」

「こりゃあ、一波乱起こりそうだな」

江戸に帰ってきたということは、何か企んでいるに違いない。

「昼寝どころじゃないわね……」

何かが起こる前に止めなくては、大変なことになってしまう。
立ち上がって、近藤さんと土方さんの方を向く。

「私、なにか情報探してきます。暫く単独行動させてください」

「なら俺も行きやすゼ」

総悟も名乗りをあげたが、首を横に振った。

「いい。複数で行動する方が危険だから。ありがと、総悟」

総悟は言い返したそうな顔をしていたが、私が制すると引き下がった。

「本当に大丈夫か?」

土方さんも心配そうに聞いてくる。

「大丈夫です。一人の方が動きやすいですから。何か分かったら、すぐに知らせます」

近藤さんも、すぐに頷いてくれた。

「そうか。松平のとっつぁんには、俺から話をつけておこう。頼んだぞ、名前くん」

「はい!」

近藤さんに頭を撫でられる。

「無茶はするなよ」

「分かってますよ」

真選組の隊士として、今できることをしなければ。

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