夜に綴る物語

□綺麗な薔薇には棘がある。ここ重要。
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「おおー」

鏡に映った自分の姿に感心する。
きらびやかな着物と髪飾り。こんな格好をするのは初めてだ。
銀さんや小太郎に見せたい。

「あんた本当に綺麗だねぇ。そんな寂れた店に置いていただなんて勿体無いよ」

「ありがとうございます」

ここでは、椿という名前で通っている。少し前に潰れた店から移ってきたという形でこの店に入れてもらった。
店の女将さんが、私に化粧をしながら何度も溜息をつく。

「それにしても大変だったねえ、お店が潰れるなんて。うちに来てくれてたら、もっと早く太夫になれただろうに」

「仕方ないですよ」

今まで散々いろんな所に潜入してきたため、最早これくらいの演技は楽勝だ。
女将さんは、よしと呟き、化粧道具を仕舞った。

「じゃあ行こうか」

「はい」

それにしても、近藤さんの言ってた取引とやらは不定期らしく、いつまで居ればいいのか分からない。
とにかく、客に手を上げないように努力して情報を掴まなければ。

「椿?」

「はい!」

作戦を頭の中で復習していたら、女将さんに肩をたたかれた。

「大丈夫かい?お客様がお待ちだよ」

「え、あ、はい……」

「店で一番かわいい子だって言っといたからね。お得意様だから、粗相のないよう気を付けるんだよ」

「……はい」

ここに来て緊張してきた。
これでも私、一応女ですから。
しかし、ここで怯んでは任務に支障が出てしまう。
ここに来る前に日輪に叩き込まれた座敷での作法を振り返り、大丈夫大丈夫と何度も自分に言い聞かせる。
気合を入れなおして、客室の襖を開けた。






「神威様、本日は誰をよこしましょうか?」

飯櫃を抱えてご飯を食べていた手を止めて、適当に答える。

「じゃあ、この店で一番かわいい子」

「かしこまりました」

地球産の女なんてみんな同じだ。特にここにいる女は。
再び箸を進めていると、外から静かな声がした。

「失礼します」

ゆっくりと襖が開く。
女は一礼して部屋の中に入り、ようやく顔を上げた。

「椿と申します」

違う。
今まで見てきた女達と何かが違う、と直感で分かった。
後ろに控えていた女将が、椿の紹介をする。

「この子、今日からうちに移ってきたんですよ。失礼がないよう言ってありますが、万一なにかあった――」

「君はもうさがっていいよ」

堅苦しい挨拶を跳ね除けると、女将は焦ったように頭を下げた。

「申し訳ございません!では、失礼します」

二人きりになったものの、沈黙に包まれる。

「……そんなに離れてないでさ、お酌してヨ」

俺から声をかけると、ようやく彼女は立ち上がった。
隣に座った彼女をじっと見る。
さっき感じた違和感を確かめようと、食い入るように彼女を観察した。
そして気付く。
目が違うのだ。
彼女はここにいる女達とは違う目をしている。かと言って、あの日輪のような目でもない。

彼女は、俺達夜兎と同じような目をしていた。

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