夜に綴る物語

□女の武器は美貌なり!
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「名前」

「なに?」

部屋で準備をしていると、総悟が入ってきた。
そして私の横に寝転ぶ。
着物を畳む手を止め、総悟の頭を撫でた。

「またサボり?」

「土方のヤローから逃げてるだけでさァ」

「つまりサボりね」

お仕置き、と総悟の鼻をつまんでやる。言い返すことはなく、総悟はただ見上げてくるだけだった。
服をまとめて、旅行カバンにつめていると、いきなり総悟が手を握ってきた。

「どうしたの?」

「……本当に吉原にいくんですかィ?」

心配そうに瞳を揺らす総悟。
安心させるように、重なっている総悟の手をもう片方の手で包み込む。

「うん。仕事だからね」

「だからって……女郎のふりをするなんて……」

「それぐらい大丈夫だって」

そう言うと、総悟は正座している私の膝に頭を乗せて、腕を腰に回してきた。

「ちょっと総悟……」

「俺は嫌だ」

ふざけているとは思えない声音に、抗う気が消えた。

「総悟?」

「俺は嫌だ。名前が知らない男に触られたり、抱かれたりするのは……。考え直してくだせェ」

「総悟……」

総悟の柔らかい亜麻色の髪に指を通す。

「ありがとう総悟。でも私は大丈夫だから。精一杯、女の武器を使わなきゃ」

「でも……っ!他の男が名前に触れるなんて、俺が嫌だ……っ!」

「……ちょっと待とうか総悟」

お尻に違和感を感じ、ピクピクと頬の筋肉がひきつる。

「お尻を撫で回しているのはなぜかな?」

「……チッ。いいとこだったのに」

「なにが“チッ”だっ!カッコいいセリフ言いながらセクハラするなっ!」

「えー。名前がいいケツしてるのが悪いんでさァ」

「責任転嫁しないでくれる!?」

「でも言ったことは、俺の本当の気持ちですゼ」

「セクハラさえしなければ、かっこよかったけどね!」

「えー。じゃあ、名前の任務中に吉原へ行ったら、この続きしてもいいんですかィ?」

「真撰組の人間がなに言ってんのよ!?」

「俺だって男ですからね。それに、名前の着物姿も見てみてェし」

「今も着物姿ですが?」

「それとは別でさァ。……本気で行きたくなってきやした……」

「職業柄やめた方がいいよ。理性を失わないで」

「あれ、照れてるんですかィ?」

「照れてません!」

いつまでも終わらない気がして、無理矢理話を終わらせた。

「総悟、退いて。私そろそろ行くから」

「行かないでくだせェ」

「いやいや、そうはいきませんから」

「……嫌になったらいつでも戻ってきていいんですゼ?」

上目遣いで見上げてくる総悟に、ドキッとする。
かわいい顔してこいつは……。

「ありがとう、総悟」

「明日にでも行きやすから」

「来なくていいから!さっきのトキメキを返せ!」

「わ、分かりやしたから!首絞めるのはやめてくだせェ!」

「あ、ごめん」

思わず伸びた手を離すと、総悟はすかさず逃げた。

「あんたは俺を殺す気ですかィ!?」

「なに、冗談だよ」

「名前の力で冗談はやめてくだせィ!……じゃあ、俺は見廻りでもしてきまさァ」

「はいはい。私も行くね」

「……気をつけてくだせェ」

「はぁい」

先に総悟を見送って、私も部屋を出た。
近藤さんと土方さんに最後に挨拶をし、屯所を出る。
屯所の看板を振り返り、気を引き締めて足を踏み出した。







「阿伏兎ー」

「なんだ?」

せっせと書類を片付けていく阿伏兎に、俺はにこやかに言う。

「暇だ」

「じゃあ仕事しろよっ!!この書類全部あんたの仕事なんだぞっ!!」

「それはヤダ」

特にすることもなく、窓の外の宇宙を眺める。
最近は強い奴とも出会うことなく、力を持て余している。今持っているゲームは飽きてしまったし、近くにめぼしい星はない。
暇だ。暇すぎて死ぬ。せめておいしいものが食べたい。
おいしいもの、というキーワードでいいことを思いついた。

「阿伏兎!」

「今度はなんだ」

判子を押しながら、阿伏兎は面倒くさそうな声を出した。

「俺、地球に行きたい」

「はあ!?いきなり何言ってんだ!」

ようやく阿伏兎が俺の方を見た。

「ほら、あの一件依頼全然吉原に行ってないし。一度見に行こうヨ!偵察ってことにすれば、上も文句は言わないだろ?」

「それはそうだが……」

「そうと決まれば阿伏兎、早くその仕事終わらせてね」

「そう言うなら、ちっとは手伝ってくれ」

「無理」

椅子から立ち上がり、背伸びをする。

「俺が上に話つけてくるからさ、後はよろしく」

「へいへい……」

半ば諦めた様子で、阿伏兎は返事をした。

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