夜に綴る物語

□誰でも死ぬ時は一人とか言うけど最後まで誰かが側にいてくれるのといないのとでは天と地ほどの差がある
1ページ/4ページ


その場にいた人間は皆、凍り付いたように動かなくなった。
真選組の屯所にかかってきた一本の電話。それは、名前の処刑を伝えるためのものだった。
電話に出た近藤が受話器を置く音が、虚しく響く。

「……嘘、だよな?」

謹慎中のため私服姿のままの総悟が、乾いた笑い声を漏らす。

「そんなの……あるわけねェや……」

「総悟……」

近藤が苦々しい表情で振り向く。その目が、これは現実だと物語っていた。
土方がくわえていた煙草の灰が、重力に従って落ちた。
総悟は手足を震わせながら、近藤に掴みかかった。

「嘘だって言ってくれよ近藤さん!名前は何もしちゃいねェ!みんな分かってんだろ!」

総悟の目から、涙の雫が床に落ちた。
何も言い返すことができず、近藤が視線を落とした。

「なんなんだよ!なんで名前が死ななきゃいけねーんだよ!」

「総悟、もうやめろ」

土方が横から総悟の腕を掴んだ。

「忘れるな、俺達は警察なんだ。上の決めたことには逆らえねェ」

「アンタはそれで平気なのかよッ!?」

土方は噛み付くようにそう叫んだ総悟の胸倉を掴みあげ、力任せに床に投げた。
受身をとる暇もなく、総悟の身体が床にぶつかり派手な音をたてる。

「誰が平気だと……?」

睨み上げる総悟を、土方が冷たい目で見下ろした。

「俺がいつ平気だっつったよ?あ?俺だって悔しくて悔しくて仕方ねェんだよ。でもな、俺達ができることなんてこれっぽっちもねェんだ。上様だって名字の冤罪晴らそうと動いてくださった。でも結果は変わらなかったんだ。なんの権力も持たねェ俺達に何ができるってんだよ」

土方の言ったことは、すべて正論だった。故に、総悟は言い返すことがてきなかった。
黙って俯いてしまった総悟を見て溜息をつき、土方は自分の部屋に戻っていった。周りに集まっていた隊士達も、自分の持ち場に戻っていく。
残ったのは、総悟と近藤と山崎の三人だった。

「総悟……」

傍らにしゃがみ、近藤は総悟の肩に手を置いた。

「トシだって、お前と同じ気持ちなんだ。分かってやってくれ」

総悟は舌打ちをすると、近藤の手を振り払って立ち上がった。
懐から警察手帳を取り出し、近藤に突き出す。

「何もできねェってんなら、警察なんてやめてやらァ……」

「おい待て!総悟!」

「沖田さん!」

総悟は振り向くこともせず、真選組の屯所から出て行った。
山崎も後から追いかけたが、門を出て辺りを見回しても、もう総悟の姿はどこにもなかった。





名前の処刑が決まった。
その知らせが入ったのは、ちょうど地球が大きく見えてきた時だった。

『場所は歌舞伎町内にある処刑場だ。俺達も、京から江戸に向かう』

「分かった……」

用件だけ伝えると、高杉は通信を切った。

「……なんで、名前は逃げようとしないんだろ」

「周りの人間のため、かねェ。嬢ちゃんのことだ、どうせ自分より他人をとったんだろう」

阿伏兎は小さく笑うと、前方にある地球に視線を向けた。

「団長だって、名前を逃がすために捕まったじゃねェか。それと一緒さ」

「……なんか、気に食わないな」

そもそも、将軍と結婚すると言い出した時点で名前は俺よりも周りの奴らをとったんだ。裏切られたというのに、まだそんな奴らのことを庇うのか。助けてくれるわけでもないのに。
だから俺は、名前が嫌がろうと拒絶しようと、力ずくでも引き戻す。
たとえ、嫌われてしまうとしても……。

,
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ