夜に綴る物語

□散るときは潔く
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事情聴取など、名前だけだった。
私は完全に犯人扱いされている。
老中が殺害されたのは昨日の13時から14時の間。刃物により急所を一撃だったそうだ。最悪なことに、その時間私は屯所を出て一人見廻りをしていた時間帯だった。
そして、晋助と会っていた時間でもある。
正直に言ったところで、余計に話がややこしくなるだけだ。
力が入らない体を壁にあずけ、目を閉じる。
よし、頭を整理しよう。
恐らく、私はどこかの組織の手先だと思われている。真撰組に間者として入り込み、幕府の情報を集め老中を殺害した。
うん、んなわけあるか。
言いがかりもいいとこだ。
まだ一日目だというのに、自分の未来が見えてしまった。
良くて流刑、最悪の場合斬首。

「死刑か……」

さすがの私も、首を斬られたら死ぬだろう。
一瞬でも痛みは感じるのだろうか。死んだらどうなるのだろう。天国とか地獄とか輪廻とか特に信じているわけではないが、本当にあるのだろうか。そもそも魂ってあるの?
だめだ。一度死刑を考えてしまうと、頭の中が死というもので埋め尽くされてしまった。今なら悟りを開けそうだ。

……神威も、捕まった時は同じような気持ちだったのだろうか。

「神威……」

もう一度、あなたに会いたい……。







『神威……』

「名前!」

名前に呼ばれた気がして飛び起きれば、ただの夢だった。
心臓が嫌な音をたてている。全身汗で濡れていて、服が張り付いて気持ち悪い。

「名前……?」

なんだろう、この胸騒ぎは。
額の汗を拭い、再びベッドに寝転ぶ。天蓋の紅い布を見つめ、左手をベッドの右側に延ばした。少し前まであった筈の温もりは無く、冷たいままのシーツを握りしめた。
会いたい。
名前に会いたい。
今までのことが全部悪い夢で、目が覚めればちゃんと隣には名前が居て。こんな夢みたんだって話したら、そんなことあるわけないでしょ、って名前が笑って……。もしそうなるとしたら、どんなに幸せだろう。
でも、これは夢じゃない。そう告げるように、お腹が鳴った。
そう言えば、暫くの間ご飯を食べていない。でも、動く気力がなかった。
二度寝しようと目を閉じる。
が、いきなり部屋の扉が開いた。

「おい団長!」

阿伏兎が荒々しく部屋に入ってくる。

「悠長に寝てる暇じゃねェぞ!起きろ!」

「なんだよ、うるさいなー」

布団に潜ろうとすれば、胸元の服を掴まれて引きずり上げられた。

「いいから起きろ!名前のピンチだ!」

名前の名前が出た瞬間、頭が覚醒した。

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