夜に綴る物語

□いざ結婚ってなると準備が面倒くさい
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将軍の婚儀の話は、あっという間に日本中に広まった。
名前のことは正式には公表されていないものの、幕府関係者や裏社会の人間には既に知れ渡っていた。

「……どういうことだ」

紫煙を吐き出し、高杉が不満げに呟いた。
周りにいた鬼兵隊のメンバーも、複雑な表情でいる。

「なんで、姐さんが……」

「神威殿はどうしたのでしょう」

武市の言葉に、高杉が口に運びかけていた煙管を持つ手を止める。

「おい」

高杉が、近くにいた万斉に声をかけた。

「アイツの船に繋げ」

「了解した」

万斉が階段から立ち上がり、操縦席に移動した。暫くして、万斉の頭上のモニターに、阿伏兎が映った。

『おお、あんたか』

「アイツはどうした」

窓の前からモニターの前に移り、高杉が尋ねる。
阿伏兎は溜息をつき、腕を組んだ。

『どうもこうもねェよ。ずっと部屋に籠って出てこねェし、食事もしねェ。ありゃあ、よっぽど落ち込んでるな』

「名前と何があった」

『……フラれたんだとよ。指輪を押し返されたらしい』

「フラれただと?」

高杉の脳裏に、鳴鈴の姿が浮かぶ。

「あの夜兎の小娘はどうした」

『ああ、どうやらアイツは上の回し者だったようでねェ、ボロボロにされて出て行っちまった』

「成程な……」

鳴鈴の作戦は、結果的に成功したわけだ。高杉は口元に笑みを浮かべ、阿伏兎に背を向けた。

「ちょっくら、江戸に行ってくる」

「正気か、晋助」

万斉が、高杉の方を振り向いた。
高杉は歩みを止めることなく、まっすぐにドアに向かっていく。

「お前らはついて来るな。一人で行く」

「でも、晋助様!」

高杉はドアの前で足を止め、顔だけモニターの方を向き、口元に笑みを浮かべた。

「なに、名前の頭に冷や水ぶっかけてくるだけだ。変なことはしねェよ」

『アイツは頑固だぜ?易々と意思を変えるかねぇ』

「そこで言って聞かせるのが、兄貴ってもんだろうが」

自動ドアが開く。
高杉は両手を懐に入れ、颯爽と出ていった。
高杉が言い残した言葉に、また子が目をハートにする。

「晋助様素敵っス!」

「しかし、阿伏兎殿の言う通りです。名前さんが説得に応じるでしょうか」

武市が顎に手をやり、視線を下げる。
阿伏兎がモニターの向こうで肩を竦めた。

『さあな。だが、早いとこ仲直りしてもらわねェと、此方も困るんだ。任せるしかねェな。ったく、団長のせいで仕事が増えるぜ……』

ブツブツとぼやきながら、阿伏兎が頭を掻く。

「晋助から連絡があり次第、そちらに報告する」

『ああ、頼んだぜ』

ブツリと接続が切れ、モニターが黒に染まった。

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