夜に綴る物語
□人生でモテ期が来るのは一部の人間だけだから!
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「団長!私、地球に行ってみたいです!」
パキリ、と手にしていた箸が折れた。
どうして食事の時まで、こいつがいるんだろう。
「勝手に行けば?」
係の奴に代わりの箸を頼んで、スプーンを取る。
「嫌ですよぅ!私行ったことないんですから、団長が案内してください」
「悪いけど、俺、名前ん家か吉原までの道しか分からないから。観光なら阿伏兎にでも頼んでヨ」
「それでいいですよ。名前さんにも会ってみたいです」
パキン、とスプーンの柄が折れた。
「なんでお前に名前を紹介しなきゃいけないんだヨ?絶対にヤダね」
新しく持ってきてもらった箸で、ご飯をかきこむ。
無視していると、鳴鈴がテーブルの反対側から身を乗り出してきた。
「ねーえー!団長ー!」
更に無視を続けていると、イスに座って足をバタバタと振り始めた。
こっちはご飯中だというのに。
「うるさいヨ!分かったから!行けばいいんだろ、行けば!」
「本当ですか!?」
いつまでも周りでウロチョロされたら、流石の俺もノイローゼになる。
吉原辺りをテキトーに案内して、あとは阿伏兎に任せてこっそり名前に会いにいこう。
「その代わり、勝手に行動するなよ」
「はーい!」
よほど嬉しいのか、スキップしながらどこかに行ってしまった。
「いいのかよ、団長」
いきなり現れた阿伏兎が、呆れたように口を挟んだ。
「だって、頷くまで絶対に諦めないだろ、あのチビ。俺は名前のとこ行くから、アイツのことは阿伏兎に任せるヨ」
「また俺かよ……」
ぶつくさ言いながら、阿伏兎は食堂から出ていった。
それよりも、早く名前からもらった結い紐を取り返さないと。
☆
久々に来る吉原は、まだ昼間だというのに以前より活気づいていた。
「へー、これが吉原ですかー」
物珍し気に、鳴鈴がキョロキョロと辺りを見回す。
その目が、吉原で一番大きい店に向けられた。
「あの店の中、見てみたいです!いいですか!」
「はいはい」
自分で決めて連れてきたのだが、予想以上に面倒くさい。
とっととおさらばして、歌舞伎町まで行きたいのに。
同じくうんざりとした表情の阿伏兎と二人で、チビの後をノロノロとついていく。
店は、やはり営業時間前なので静まりかえっていた。
「まあ、ゆっくりしてくれや。俺は食事でも頼んでくる」
「気が利くねえ、阿伏兎」
「へいへい」
阿伏兎を見送ってから、更に店の上を目指す。
いろんな部屋を見て回っている鳴鈴は置いといて、初めて名前と出会った部屋へと足を運んだ。
最上階にある懐かしの部屋に入れば、自然と頬が緩んだ。
窓に近づいて、そっと開けてみた。隙間から入ってきた太陽の光に目を細める。
「団長、そんなことしたら肌に悪いですよ」
折角思い出に浸っていたのに、邪魔が入った。
窓を閉めて、振り返る。
「邪魔しないでくれるかな?好きな所に行けば?」
「それよりも、私は団長といたいです。……二人きり、なんですよ?」
わざとらしい言葉に、苛立ちがつのる。
「私、ずっと団長のこと見てました。団長の心が私のものになるなんて思ってません。だから、せめて一度だけ――」
言い終わる前に、鳴鈴の胸ぐらを掴んで畳の上に押し倒した。
いきなりのことで驚いたのか、鳴鈴が素で驚く。
「そろそろさ、返してヨ」
「やだなぁ、団長。ムードとか大切にしてくださいよ」
すぐに元に戻った鳴鈴が、ニヤニヤと見上げてくる。
「あのさ、俺だってそんなにやさしくないんだ。いい加減に、返してくれないかな、名前の結い紐」
「嫌だって言ったら?」
挑発するような言いぐさに、鳴鈴の首に手をかける。
「そんなの、力ずくでうば――」
「――神威……?」
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