夜に綴る物語

□人生でモテ期が来るのは一部の人間だけだから!
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「団長!私、地球に行ってみたいです!」

パキリ、と手にしていた箸が折れた。
どうして食事の時まで、こいつがいるんだろう。

「勝手に行けば?」

係の奴に代わりの箸を頼んで、スプーンを取る。

「嫌ですよぅ!私行ったことないんですから、団長が案内してください」

「悪いけど、俺、名前ん家か吉原までの道しか分からないから。観光なら阿伏兎にでも頼んでヨ」

「それでいいですよ。名前さんにも会ってみたいです」

パキン、とスプーンの柄が折れた。

「なんでお前に名前を紹介しなきゃいけないんだヨ?絶対にヤダね」

新しく持ってきてもらった箸で、ご飯をかきこむ。
無視していると、鳴鈴がテーブルの反対側から身を乗り出してきた。

「ねーえー!団長ー!」

更に無視を続けていると、イスに座って足をバタバタと振り始めた。
こっちはご飯中だというのに。

「うるさいヨ!分かったから!行けばいいんだろ、行けば!」

「本当ですか!?」

いつまでも周りでウロチョロされたら、流石の俺もノイローゼになる。
吉原辺りをテキトーに案内して、あとは阿伏兎に任せてこっそり名前に会いにいこう。

「その代わり、勝手に行動するなよ」

「はーい!」

よほど嬉しいのか、スキップしながらどこかに行ってしまった。

「いいのかよ、団長」

いきなり現れた阿伏兎が、呆れたように口を挟んだ。

「だって、頷くまで絶対に諦めないだろ、あのチビ。俺は名前のとこ行くから、アイツのことは阿伏兎に任せるヨ」

「また俺かよ……」

ぶつくさ言いながら、阿伏兎は食堂から出ていった。
それよりも、早く名前からもらった結い紐を取り返さないと。






久々に来る吉原は、まだ昼間だというのに以前より活気づいていた。

「へー、これが吉原ですかー」

物珍し気に、鳴鈴がキョロキョロと辺りを見回す。
その目が、吉原で一番大きい店に向けられた。

「あの店の中、見てみたいです!いいですか!」

「はいはい」

自分で決めて連れてきたのだが、予想以上に面倒くさい。
とっととおさらばして、歌舞伎町まで行きたいのに。
同じくうんざりとした表情の阿伏兎と二人で、チビの後をノロノロとついていく。
店は、やはり営業時間前なので静まりかえっていた。

「まあ、ゆっくりしてくれや。俺は食事でも頼んでくる」

「気が利くねえ、阿伏兎」

「へいへい」

阿伏兎を見送ってから、更に店の上を目指す。
いろんな部屋を見て回っている鳴鈴は置いといて、初めて名前と出会った部屋へと足を運んだ。
最上階にある懐かしの部屋に入れば、自然と頬が緩んだ。
窓に近づいて、そっと開けてみた。隙間から入ってきた太陽の光に目を細める。

「団長、そんなことしたら肌に悪いですよ」

折角思い出に浸っていたのに、邪魔が入った。
窓を閉めて、振り返る。

「邪魔しないでくれるかな?好きな所に行けば?」

「それよりも、私は団長といたいです。……二人きり、なんですよ?」

わざとらしい言葉に、苛立ちがつのる。

「私、ずっと団長のこと見てました。団長の心が私のものになるなんて思ってません。だから、せめて一度だけ――」

言い終わる前に、鳴鈴の胸ぐらを掴んで畳の上に押し倒した。
いきなりのことで驚いたのか、鳴鈴が素で驚く。

「そろそろさ、返してヨ」

「やだなぁ、団長。ムードとか大切にしてくださいよ」

すぐに元に戻った鳴鈴が、ニヤニヤと見上げてくる。

「あのさ、俺だってそんなにやさしくないんだ。いい加減に、返してくれないかな、名前の結い紐」

「嫌だって言ったら?」

挑発するような言いぐさに、鳴鈴の首に手をかける。

「そんなの、力ずくでうば――」



「――神威……?」



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