夜に綴る物語

□恋の火蓋は切って落とされた、なんちゃって騒動勃発
3ページ/6ページ



青い海、白い入道雲。

「夏だァァァァァァア!」

「うるせーよッ!」

海に向かって叫ぶと、土方さんに怒鳴られた。
すいませんと謝り、パラソルの下で体育座りをする。
本日のお仕事は、ズバリ、将軍のお忍びバカンスの警護である。
仕事とはいえ、やっぱり海に来たらテンションが上がってしまう。

「たまにはいいじゃないですかィ、土方さん。名前、日焼け止め塗ってくだせェ」

「いいよー」

「おいッ!なんでお前ら遊ぶ気満々なんだよッ!仕事しろよ仕事ッ!」

手の中から、日焼け止めが消えた。
顔を上げれば、息を切らしている土方さん。

「あ、土方さんも塗ります?」

「違ェよ!仕事しろっつってんだろッ!」

「まあまあ、そう怒るな」

穏やかな声が、土方さんの説教を遮った。
声のした方を見て、慌てて立ち上がる。

「失礼しました、将軍」

土方さんがそう言いながら、日焼け止めを後ろ手に投げた。
水着に着替えた将軍の後ろには近藤さんもいて、ビーチにいる女の人を見て鼻の下を伸ばしている。

「今日はよろしく頼む」

「いえいえ!あ、こいつが1日将軍の側で警護しますので!」

ぐいぐいと土方さんに背中を押され、将軍の前に出た。
将軍を目の前にすると、自然と気持ちが引き締まる。

「よろしくお願いします」

「久しいな、名字殿。今日はそなたも楽しんでくれ」

将軍、なんていい人なんだ!

「はい!」

元気よく返事をし、水着の上に着ていた上着を脱いだ。

「今日のために、水着買っちゃいました!」

先日買った人生初のビキニを披露する。
その直後、宙に赤い放物線が走り、将軍が白目をむいて後ろに倒れた。

「将軍ッ!?」

土方さんが駆け寄り、将軍の意識を確認する。

「敵襲か!」

辺りを見渡すが、敵が隠れていそうな場所はない。
刀を抜いて攻撃に備えていると、背後から肩をつつかれた。

「総悟、何してんの!襲撃だよ!」

「いや、敵はいませんや。たぶん、これでさァ」

ぷに、と総悟が指先で私の左胸を押した。
いきなりのセクハラに固まっていると、一度だけでなく何度もぷにぷにと押してくる。

「……ダァァァァァァアッ!」

刀を振り回せば、後ろに総悟は飛び退いた。

「俺を殺す気ですかィ!?」

「今のは総悟が悪いでしょ!」

「お前ら!将軍を気にしろよ!」

白い砂を赤く染めている将軍の傍らで、土方さんが叫ぶ。
急いで刀を仕舞うと、総悟に上着を無理矢理着せられた。

「名字、水着変えてこい」

「えー!折角買ったのに!」

私は悪くない筈だ。いい年齢して、女の水着姿くらいで鼻血を出す将軍が悪い。
と訴えたいのだが、仕事なので命令に逆らうことはできない。

「分かりました。売店で違うの買ってきます……」

とぼとぼと砂浜を歩き、海の家を目指す。
でもすぐに脱ぐのは勿体無いので、真撰組のパラソルからは見えない所で自撮りし、銀さんに送りつけてみた。



* * * * *




「ゴブファッ!」

「ちょ!銀さん、汚いですよ!早く吹いたお茶拭いてください!」

「ん?何アルか?」

「名前が……名前が……」

「名前さんがどうかしましたか?」

「のわッ!?名前がグラビアアイドルになってるネ!」

「……えェェェエ!?」


,
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ