夜に綴る物語

□恋の火蓋は切って落とされた、なんちゃって騒動勃発
2ページ/6ページ



「たーかすーぎさんッ!」

高杉が第七師団の船の廊下を歩いていると、背後から底抜けに明るい声が投げかけられた。
ゆっくりと足を止め、面倒そうに高杉が振り返る。

「……なんだ」

ニコニコと高杉を見上げる鳴鈴の目が、先程までの明るい声とは打って変わって、鋭い眼光を放つ。
腕を後ろに回し前屈みになり、鳴鈴はわざとらしく上目遣いをした。

「一度高杉さんとお話してみたかったんですよー。今お時間あります?」

「生憎、俺には話すことなんてねェ」

嫌悪感を露にし、高杉は鳴鈴に背を向けた。
その背後で鳴鈴が意味深な笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと口を開いた。

「名字名前……」

再び、高杉の足が止まった。
高杉の反応に更に鳴鈴が口角を上げ、一歩一歩踏みしめながら高杉に近づいていく。

「名字名前って、今は団長の婚約者だけど、昔は高杉さんの恋人だったんでしょう?まさかそのお二人が同盟関係になるなんて、宇宙って案外狭いですよねー」

高杉の前に回り込み、鳴鈴は高杉の顔を覗きこんだ。鳴鈴の神経を逆撫でするような言葉でも、高杉は顔色一つ変えていない。
不服そうに鳴鈴は一瞬笑みを消し、更に問いかける。

「高杉さんは、その人のことまだ好きなんじゃないんですかー?もし名前さんを取り返せるとしたら、どうします?」

「……何が言いてェんだ」
鳴鈴は一歩さがり、小さく首を傾げた。

「取り引きしませんかってことですよ」

取り引きという言葉に、高杉が眉を寄せる。
ようやく反応が返ってきたことに満足したのか、鳴鈴が更に話を続けた。

「私、団長が欲しいんです。私に協力してくれたら、高杉さんはもう一度名字名前とやり直せるんですよ?いい話だと思いませんか?」

「……確かにそうだな」

高杉の口元が歪む。
鳴鈴は高杉の答を聞くと、チャイナ服のポケットから、紫色の結い紐を取り出した。それを見せつけるように、顔の横で揺らす。

「これ、知ってますよね」

それはまだ吉田松陽が生きていた頃、高杉と桂と銀時が金を出し合って、名前に贈った物だった。
御守りとして肌身離さず名前は持っていた物で、今は神威が持っている筈だ。

「テメェ、それをどこで手に入れた」

「団長の部屋ですよ。今朝入った時に持って来ちゃいました」

団長怒るだろうなー、と鳴鈴が暢気に紐を指先で弄ぶ。

「大丈夫です、捨てたりしませんから。計画が成功したら、高杉さんにお渡しします」

鳴鈴は結い紐をチャイナ服の中に戻し、何事も無かったかのように高杉の横を通り抜けていった。

「楽しみにしててくださいね、高杉さん」

鼻唄を歌いながら去っていく鳴鈴の背中を見ながら、高杉は懐から煙管を出した。

「こりゃあ、一波乱起こりそうだなァ」







「っくしゅ!」

「どうした名字、風邪か?」

「風呂上りに薄着するからでさァ」

「風邪じゃないと思うんだけどなー」

「どっかで噂でもされてんじゃねえのか?」

「やだなあ土方さん、そんなに私が綺麗ですか?」

「誰もそんなこと言ってねぇよッ!」

「ムキになるってことは、図星ですねィ」

「やだどうしよう!美しさって罪ね、総悟……」

「土方さん、部下に手を出すなんて最低でさァ」

「誰がいつ手ェ出したよ!?なんなのお前ら!?」

「土方さん、忘れたんですか?あの夜のこと……」

「どの夜だよ!なんもしてねぇだろ!」

「土方さん、俺、マヨラーでもアンタのこと尊敬してたのに……まさかそんな奴だったとは……」

「嘘つくんじゃねェ!お前が俺を尊敬したことなんて一度もねぇだろうが!」

「総悟、私どうしたらいいの……?」

「大丈夫だ名前、アンタは穢されちゃいねェ。名前の心は、綺麗なままでさァ」

「総悟……!」

「うるせぇよお前ら!茶番劇してる暇あったら見廻り行ってこいやッ!」

「「はーい」」


,
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ