夜に綴る物語
□恋の火蓋は切って落とされた、なんちゃって騒動勃発
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「たーかすーぎさんッ!」
高杉が第七師団の船の廊下を歩いていると、背後から底抜けに明るい声が投げかけられた。
ゆっくりと足を止め、面倒そうに高杉が振り返る。
「……なんだ」
ニコニコと高杉を見上げる鳴鈴の目が、先程までの明るい声とは打って変わって、鋭い眼光を放つ。
腕を後ろに回し前屈みになり、鳴鈴はわざとらしく上目遣いをした。
「一度高杉さんとお話してみたかったんですよー。今お時間あります?」
「生憎、俺には話すことなんてねェ」
嫌悪感を露にし、高杉は鳴鈴に背を向けた。
その背後で鳴鈴が意味深な笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「名字名前……」
再び、高杉の足が止まった。
高杉の反応に更に鳴鈴が口角を上げ、一歩一歩踏みしめながら高杉に近づいていく。
「名字名前って、今は団長の婚約者だけど、昔は高杉さんの恋人だったんでしょう?まさかそのお二人が同盟関係になるなんて、宇宙って案外狭いですよねー」
高杉の前に回り込み、鳴鈴は高杉の顔を覗きこんだ。鳴鈴の神経を逆撫でするような言葉でも、高杉は顔色一つ変えていない。
不服そうに鳴鈴は一瞬笑みを消し、更に問いかける。
「高杉さんは、その人のことまだ好きなんじゃないんですかー?もし名前さんを取り返せるとしたら、どうします?」
「……何が言いてェんだ」
鳴鈴は一歩さがり、小さく首を傾げた。
「取り引きしませんかってことですよ」
取り引きという言葉に、高杉が眉を寄せる。
ようやく反応が返ってきたことに満足したのか、鳴鈴が更に話を続けた。
「私、団長が欲しいんです。私に協力してくれたら、高杉さんはもう一度名字名前とやり直せるんですよ?いい話だと思いませんか?」
「……確かにそうだな」
高杉の口元が歪む。
鳴鈴は高杉の答を聞くと、チャイナ服のポケットから、紫色の結い紐を取り出した。それを見せつけるように、顔の横で揺らす。
「これ、知ってますよね」
それはまだ吉田松陽が生きていた頃、高杉と桂と銀時が金を出し合って、名前に贈った物だった。
御守りとして肌身離さず名前は持っていた物で、今は神威が持っている筈だ。
「テメェ、それをどこで手に入れた」
「団長の部屋ですよ。今朝入った時に持って来ちゃいました」
団長怒るだろうなー、と鳴鈴が暢気に紐を指先で弄ぶ。
「大丈夫です、捨てたりしませんから。計画が成功したら、高杉さんにお渡しします」
鳴鈴は結い紐をチャイナ服の中に戻し、何事も無かったかのように高杉の横を通り抜けていった。
「楽しみにしててくださいね、高杉さん」
鼻唄を歌いながら去っていく鳴鈴の背中を見ながら、高杉は懐から煙管を出した。
「こりゃあ、一波乱起こりそうだなァ」
☆
「っくしゅ!」
「どうした名字、風邪か?」
「風呂上りに薄着するからでさァ」
「風邪じゃないと思うんだけどなー」
「どっかで噂でもされてんじゃねえのか?」
「やだなあ土方さん、そんなに私が綺麗ですか?」
「誰もそんなこと言ってねぇよッ!」
「ムキになるってことは、図星ですねィ」
「やだどうしよう!美しさって罪ね、総悟……」
「土方さん、部下に手を出すなんて最低でさァ」
「誰がいつ手ェ出したよ!?なんなのお前ら!?」
「土方さん、忘れたんですか?あの夜のこと……」
「どの夜だよ!なんもしてねぇだろ!」
「土方さん、俺、マヨラーでもアンタのこと尊敬してたのに……まさかそんな奴だったとは……」
「嘘つくんじゃねェ!お前が俺を尊敬したことなんて一度もねぇだろうが!」
「総悟、私どうしたらいいの……?」
「大丈夫だ名前、アンタは穢されちゃいねェ。名前の心は、綺麗なままでさァ」
「総悟……!」
「うるせぇよお前ら!茶番劇してる暇あったら見廻り行ってこいやッ!」
「「はーい」」
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