夜に綴る物語

□恋の火蓋は切って落とされた、なんちゃって騒動勃発
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『神威……』

「ん……名前……?」

名前を呼ばれて、もう起きる時間なのかと重い瞼を開ける。

が――

「おはようございます、神威団長!」

視界に映ったのは名前ではなく、鳴鈴だった。
なんとも言えない寂寥感に包まれる。

「もー、そんな残念そうな顔しないでくださいよー」

「うるさいヨ、ちび。これが残念以外の何だって言うの。ていうか、なんで勝手に入ってきてんの」

「団長を起こす為に決まってるじゃないですか」

当たり前のことのように言った鳴鈴は、迷わず俺から布団を引き剥がした。
勝手に部屋に入ってきた上に睡眠を邪魔するなんて、本当にいい度胸をしている。

「いいから出てけ」

「もー、分かりましたよー」

わざとらしく頬を膨らませ、鳴鈴はベッドから離れた。

「二度寝しちゃ駄目ですよ、団長!」

「はいはい」

鳴鈴が部屋を出ていくのを見届け、そのままもう一度ベッドに倒れた。

毎朝名前が起こしてくれていたのが、随分と昔のことのように感じる。
名前が作った味噌汁と卵焼きの味を思い出した途端に、腹が鳴った。

「……着替えよ……」

思い出すほど虚しいだけだ。
ノロノロと起き上がり、靴を履いて鏡台の前に向かう。

――あれ……?

櫛を持ち上げた瞬間、ふと違和感に包まれた。
すぐにそれは確信となり、ドアの方を見る。

「アイツ、どうやって部屋に入ったんだ……?」

この部屋のドアは指紋認証が付いている。登録しているのは、俺と名前と阿伏兎だけだ。
名前がいない今、外から開けることができるのは阿伏兎だけ。だが、わざわざ鳴鈴を入れるために阿伏兎が開けに来るとは思えない。

――システムに入り込まれたか……。

俺は急いで身仕度を整え、部屋を出た。







「ってことがあったんだ」

「回想が長ェよ」

溜息と共に、高杉が紫煙を吐き出した。

「団長、セキュリティには特に問題はありませんが」

団員の一人が手を止め、顔を上げる。

「本当に?大丈夫なの?」

「はい。特に障害もありませんし、指紋認証システムも変わっていません」

「そっか……」

ということは、鳴鈴は船のセキュリティにはまだ手を出していないということか。
後ろにいた阿伏兎に目を向けると、阿伏兎は怪訝そうな顔をした。

「言っとくが、俺はあの小娘に加担したことはねーぜ」

「じゃあ、アイツはどうやって部屋を開けたの?」

「俺に聞くな。本人に聞きゃいいだろーが」

「そんなことするほど、俺はバカじゃないよ」

モヤモヤと疑念が残ったままだが、これ以上調べても何も出てこないだろう。

「取り敢えず、鳴鈴だけは絶対にここには入れないでね」

「分かりました」

団員に念を押してから、操縦室を出た。


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