夜に綴る物語

□親子なんて嫌でも似るもんだ
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お互いの顔を見合わせ、誰か早く出ろと視線で訴える。
これはお決まりのことなのだが、こういう場合にハズレを引くのは必ず新八だ。

「開けるだけでいいんだ。行け、新八!」

「えー!?」

「新八、あんた男でしょ!」

「そんなの、神楽ちゃんが自分で行けばいいでしょう!?」

「何言ってるネ新八!ここは“男共を手懐けてます”的余裕を見せたいアル!」

「いらないよそんな余裕!」

ピンポーン

「だァァァァア!さっさと行けよ新八!」

「ギャアアアア!」

銀さんは痺れを切らし、新八の襟首を掴んで玄関に向けて放り投げた。

「殺す気ですかアンタッ!」

スライディングで玄関まで到達した新八が、顔を赤くさせて飛び起きる。
銀さんは涼しい顔をして、早く出ろ、とシッシッと手を払った。
新八も逃げられないことを確信したのか、大人しくドアに手を延ばす。

「は、はい……」

ゆっくりと新八がドアを開けると、懐かしいちょび髭親父の姿が現れた。

「お久しぶりです、皆さん」







緊張感が半端じゃない。
星海坊主の反対側に四人が無理矢理座り、背筋に針金が通っているかのように姿勢をただす。

「パピー、いきなり来てどういうつもりアルか?」

「父親が娘を心配するのに理由はいるのか?」

「心配なんていらないネ。アタシはもう子供じゃないアル」

足を組んで不良娘のようにそう言い捨てた神楽は、ちゃっかりと片手でお土産の饅頭を握っている。
説得力無さすぎだろう。

カラカラになっていた喉を潤そうと湯飲みを取ると、震えているせいでお茶の水面が揺れた。
それに気付いた星海坊主が、私に顔を向ける。

「どうしました?名字さん。顔色が悪いようですが」

「い、いえ、なんでもないです!お気遣いなく!」

「しかし、手も震えているようだが……」

「あ、いや、あの、これは武者震いです!」

「武者震い……?」

「いえ!かの有名な星海坊主様を前にして戦闘部族の血が騒ぐというかなんというか……」

――って、何を言ってるんだ私!?喧嘩売ってるみたいじゃん!

銀さんと新八は驚きのあまり、顎が外れるんじゃというくらい口を大きく開けている。
星海坊主本人も訳が分からないようで、瞬きを繰り返していた。

「えっと……すいません、忘れてください……」

「ハハハハ!いやいや、気にしないでください。熾鬼も元々夜兎の仲間。同族として強い女性がいることは喜ばしい。夜兎の男なら、きっと放ってはおけんでしょうな」

「「「うっ……」」」

見事に銀さんと新八と私の声が重なった。
冷や汗が背中を伝う。
それを察してくれたのか、神楽がフォローするように口を開いた。

「パピー、いい年して若い女を口説くなヨ。娘として情けないネ」

「すまんすまん。そんな気は無かったんだがな」

ナイス神楽!
頼むから、そのまま話を逸らしてく――

「よりにもよって息子の女をそんな目で見るなんて、キモいアル」



「「「オィィィィィイッ!!」」」



悲鳴にも似た絶叫が、室内にこだました。
三人で一斉に、神楽の口を塞ぐ。

だが、時既に遅し。

「ん?名字さん、その指輪は……」

「はい?……あ……」

神楽の口にあてたのは、神威からもらった指輪をはめている左手だった。


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