夜に綴る物語
□親子なんて嫌でも似るもんだ
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そう、それは突然の事だった。
珍しく仕事が早く終わり、みたらし団子を大量購入して万事屋に寄った。
「飛び出てクリビツ名前ちゃんだよー!」
勢いよく登場したのはいいのだが、誰も反応してくれなかったのだ。
通夜のようにジメジメとした空気を纏い、神楽は座ったまま下を向いている。
銀さんも、生気を吸いとられたかのように力が抜けていた。
唯一顔を上げてくれたのは新八だった。
「ああ、名前さんじゃないですか。こんにちは」
「うん、こんにちは。そんなに普通に挨拶されると、逆に悲しいよ」
「すいません、いろいろありまして……」
申し訳なさそうに苦笑し、新八が立ち上がる。
「どうぞ座ってください。お茶淹れてきますね」
台所に消えていく新八を見送り、神楽ちゃんの顔を覗いてみる。
「神楽、みたらし団子だよー」
「団子だとゥ!?」
「復活早ッ!?」
白目を剥いていたいたのに、食物をチラつかせるとすぐに復活した。
流石神楽。
神楽は一本の串に刺さっている4つの団子を一気に頬張り、クナイでも持つように両手の指の間に新しい串を挟んだ。
「おい、俺の分は食うなよ!」
「銀さん、対抗しなくていいから」
銀さんも背筋を正し、団子を掴んだ。
「皆さん、どうぞ」
「あ、ありがと。新八も食べないと全部無くなるよ」
「はい、いただきます」
新八の座るスペースを開け、私も一本取った。
「で、何があったの?」
話題を切り出した途端、神楽の表情が陰った。
団子を一旦包みの上に戻し、チャイナ服のズボンのポケットから何かを取り出す。
「これが、さっき届いたアル」
「手紙?」
白い封筒を受け取り、裏を見てみる。
封筒の裏の右下には、『パピーより』という文字が書かれていた。
「この手紙がどうしたの?手紙ならいつも来てるでしょ?」
「中を見てみるアル!いつものとは違うネ!」
言われた通りに便箋を取り出し、ざっと目を通した。
冒頭部分は普通の近況報告だった。
だが、後半に差し掛かった時、神楽が白目を剥いていた理由が分かった。
『やっぱり、男と同居というのは心配です。よって、パピーはもう一度抜き打ち検査に行きたいと思います。』
手紙にはこう書かれていたのだ。
「え、ちょ、星海坊主また来るの?」
「そうアル。ほんとしつこい親父アルネ」
「また厄介なことにならなきゃいいんだけどな」
手紙を神楽に返し、お茶を一口飲む。
「で、いつ来るの?」
「たぶん、出された日からすると今日か明日ネ」
「本当に急だなー。でも、事前に手紙が着いただけマシでしょ。神威なんて、来てから手渡しなんだか、ら……」
おい、ちょっと待て。
星海坊主イコール神楽の父。神楽イコール神威の妹。よって、神楽の父イコール神威の父。
「……ギャアァァァァァァアッ!!」
私の叫び声が響き渡り、三人が一斉に耳を塞いだ。
「なんだよ!いきなり叫ぶな!」
「ぎぎぎぎぎ銀さん!」
「お前震えすぎだぞ。なんだよ、突然」
自分の手の震えが半端じゃない。
若干銀さんが引いている。
「銀さん、ちょっとヤバイよ……」
「何がだ」
「私、神威と婚約してるんだけど」
「……あ」
「挨拶とかしてないよ私!ていうか、いろいろあって、私もう春雨の一員なんだよ!」
「はァ!?それ俺も初耳だぞ!」
「私も一昨日聞いたんだよ!どうしよ!どうすればいい!?」
「落ち着け!取り敢えず落ち着け!深呼吸だ!深呼きゅ――」
ピンポーン
突如銀さんの言葉を遮ったインターホンの音に、万事屋の中だけ時間が止まった。
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