夜に綴る物語
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名前が真撰組に入隊して早三週間。衝撃の天人宣言はあったものの、名前がいることが真撰組にとって当たり前となった。
総悟ともようやく打ち解け始め、事務仕事にも慣れた。
そんな矢先、初の単独での仕事が名前に舞い込んできた。
「潜入捜査、ですか……」
「ああ」
ホワイトボードにはいかにも悪人といった容貌の男の写真が数枚貼られており、関係図のような線で結ばれている。
「攘夷運動の過激派の本拠地を、監察がつきとめた。歌舞伎町内のキャバクラを所有しており、稼いだ金を資金源として活動しているらしい。攘夷運動以外にも、未成年を店で働かせていたり、裏では人身売買もしているようだ。以前この店で働いていた十代の女性が、五人も行方不明になっている」
配られた資料には、行方不明になっている少女の写真も載っていた。
「まだ目立った動きはありませんが、週に三回ほど幹部が店に出入りしています」
山崎が拡大コピーした写真をホワイトボードの隅に貼る。それは店に入っていく男の写真だった。
「店の奥には会員用の個室があり、幹部はそこに集まっているようです」
「そこで、だ……」
土方が資料から目を離し、名前に視線を向けた。
「名字を店に送り込み、内部を詳しく調べたいんだ。ただし、中に入ってしまえば俺達は指示を出すだけでサポートはできない。最悪の場合……名字には、身体を張ってもらうことになる」
「……つまり、枕営業、ですか?」
「……ああ」
冷静に事態を受け止める名前よりも、隣に座っていた総悟が反対の意を示した。
「ちょっと待ってくだせェ!他に方法はねェんですかィ!?」
「総悟、落ち着け」
近藤が総悟を牽制し、資料を机に置いて立ち上がった。
「上とも協議した結果決まったことだ。名字君には嫌な思いをさせてしまうだろうが、無理を承知で頼みたい」
その場にいた隊員の目が、名前に集中する。
名前は何も言わず暫く考えた後、近藤と土方に笑みを向けた。
「分かりました、やります。仕事ですしね」
「そうか」
安堵の息を吐き、近藤が座る。
名前が決めたことを反論できる筈もなく、総悟は奥歯を噛み締めた。
「初仕事なのにハードル高いなー」
「なに暢気なこと言ってんですかィ。あんた女だろ」
「今は男も女も関係ないよ。私なら大丈夫だから」
ね?と再度念を押した名前に、総悟は頷くことしかできない。
真撰組に入った時点で、身体を張ることは覚悟していた。寧ろ、女である名前にとっては一番の武器である。
それを使う時が来た。
ただそれだけのことだ。
「来週から、名字には店で働いてもらう。店の向かいにあるホテルに常に山崎を待機させているから、必要なら下見に行ってこい」
「分かりました」
「よし、じゃあ今日は解散だ」
次々と隊員が席を立つなか、名前は最後まで資料を見つめていた。
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