夜に綴る物語

□01
2ページ/2ページ



「そろそろだな、トシ」

「……行ってみるか」

女が言っていた通り、ちょうど十分経った頃に真撰組は旅館に突入した。



「……なんだよ……これ……」



階段や廊下には、見張り役だったであろう浪士が、何人も倒れていた。どうやら気を失っているだけのようで、中には苦しげに呻いている男もいる。

「強行突破、ですかィ」

「……行くぞ」

土方を先頭に、真撰組は旅館の三階にある一番広い宴会場を目指した。
近づくにつれて倒れている人数も増えていき、数人は足や手から血を流していた。

豪華な松の絵が描かれている襖を開けると、そこに広がっていたのはまさに地獄絵図。
浪士の頭と思しき男は隊員の刀で右肩を貫かれていて、鶴の絵が描かれている襖に串刺しにされている。急所は外されているが何人も血を流して倒れていた。
血で汚れた宴会場の中央では、縄を解かれた人質が呆然として座り込んでいる。

だが、あの女の姿はどこにもなかった。

「おい、何があった!」

苛立ちを隠せずに、土方が女将の肩を掴む。
女将は目を泳がせながら説明した。

「あ、あの、女性が一人、いきなり、入って、きて……あっという間に、この人達を……。それで、縄を、ほどいて、くださって、さっき、出ていかれました……」

女将は震える手で、先程真撰組が入ってきた方を指さした。
沖田が廊下に出て確認したが、既に女の姿はない。

「どうしやす?土方さん。追い掛けやしょうか?」

「……いや、いい。誰も殺されてねェみたいだしな。それに……」

土方は足元に倒れていた浪士を仰向けにし、怪我の具合を調べた。

「見てみろ、綺麗に急所だけ外してやがる。ありゃプロだな」

「まあ、攘夷浪士ではなさそうですねィ」

「あの、副長……これは……」

隊員の一人が、土方におずおずと女が持っていた袋を差し出す。
それを沖田が横から奪い、中を覗いて首を傾げた。

中には、苺牛乳とスナック菓子、そして大量の酢昆布が入っていた。







「たっだいまー!」

「おう、遅かったな。つーか、なんでそんなに上機嫌なんだ?」

「ふっふー!ひ・み・つ」

ニコニコとして帰ってきた名前を見て、訝しげに銀時が眉をひそめる。
寝転んでいた神楽も顔を上げ、スンスンと鼻を鳴らして顔をしかめた。

「……血の匂いがするアル」

「ん、言われてみれば確かに……名前ちゃーん、何してきたのかなー?」

「人助け!」

左手を腰にあて、右手でブイサインを作った名前に、銀時が溜息をつく。

「頼むから問題だけは起こすなよ……」

「わかってるって。……あ」

「あ?次はなんだ?」

名前は自分の体を見下ろし、きまずそうに苦笑した。

「ごめん……買った物忘れてきた……」



「「はァァァァァァアッ!?」」









→02
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ