夜に綴る物語
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「そろそろだな、トシ」
「……行ってみるか」
女が言っていた通り、ちょうど十分経った頃に真撰組は旅館に突入した。
「……なんだよ……これ……」
階段や廊下には、見張り役だったであろう浪士が、何人も倒れていた。どうやら気を失っているだけのようで、中には苦しげに呻いている男もいる。
「強行突破、ですかィ」
「……行くぞ」
土方を先頭に、真撰組は旅館の三階にある一番広い宴会場を目指した。
近づくにつれて倒れている人数も増えていき、数人は足や手から血を流していた。
豪華な松の絵が描かれている襖を開けると、そこに広がっていたのはまさに地獄絵図。
浪士の頭と思しき男は隊員の刀で右肩を貫かれていて、鶴の絵が描かれている襖に串刺しにされている。急所は外されているが何人も血を流して倒れていた。
血で汚れた宴会場の中央では、縄を解かれた人質が呆然として座り込んでいる。
だが、あの女の姿はどこにもなかった。
「おい、何があった!」
苛立ちを隠せずに、土方が女将の肩を掴む。
女将は目を泳がせながら説明した。
「あ、あの、女性が一人、いきなり、入って、きて……あっという間に、この人達を……。それで、縄を、ほどいて、くださって、さっき、出ていかれました……」
女将は震える手で、先程真撰組が入ってきた方を指さした。
沖田が廊下に出て確認したが、既に女の姿はない。
「どうしやす?土方さん。追い掛けやしょうか?」
「……いや、いい。誰も殺されてねェみたいだしな。それに……」
土方は足元に倒れていた浪士を仰向けにし、怪我の具合を調べた。
「見てみろ、綺麗に急所だけ外してやがる。ありゃプロだな」
「まあ、攘夷浪士ではなさそうですねィ」
「あの、副長……これは……」
隊員の一人が、土方におずおずと女が持っていた袋を差し出す。
それを沖田が横から奪い、中を覗いて首を傾げた。
中には、苺牛乳とスナック菓子、そして大量の酢昆布が入っていた。
☆
「たっだいまー!」
「おう、遅かったな。つーか、なんでそんなに上機嫌なんだ?」
「ふっふー!ひ・み・つ」
ニコニコとして帰ってきた名前を見て、訝しげに銀時が眉をひそめる。
寝転んでいた神楽も顔を上げ、スンスンと鼻を鳴らして顔をしかめた。
「……血の匂いがするアル」
「ん、言われてみれば確かに……名前ちゃーん、何してきたのかなー?」
「人助け!」
左手を腰にあて、右手でブイサインを作った名前に、銀時が溜息をつく。
「頼むから問題だけは起こすなよ……」
「わかってるって。……あ」
「あ?次はなんだ?」
名前は自分の体を見下ろし、きまずそうに苦笑した。
「ごめん……買った物忘れてきた……」
「「はァァァァァァアッ!?」」
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