夜に綴る物語
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鳴り響くサイレンの音と、一つの旅館を照らす照明。
あちこちで無線による会話が繰り広げられられており、テレビの中継まで行われていた。
「今回はちょいと厄介ですねェ」
「ったく、折角の休みだったのによ……」
煙草に火をつけながら、土方は旅館を見上げた。
「いいか、絶対にバズーカぶっ放つなよ」
「分かってやすって」
と言いつつ片手には既にバズーカを持っている沖田。
「言ってるそばからこれかよッ!あっちには人質がいるっつってんだろーがッ!」
「……チッ」
「聞こえてんだよッ!」
「まあ落ち着けトシ。総悟も、今日はやめとけ」
ようやく口を出した近藤によって、二人は平静を取り戻した。
有名人も利用するという高級旅館には、現在約三十名の攘夷浪士が立て籠っている。中にはまだ人質である客と女将がいて、下手に突入できずにいた。
「総悟、向こう要求は何だ?」
「服役中のアイツ等のトップ三人の釈放でさァ」
「まったく、人騒がせな奴等だ」
「どうしやす?一か八か突入しやすか?」
「いや、まだ無理だろう」
顎に手を当てて考え込む近藤だが、未だにいい案は出ていない。
この分だと、どちらが先に折れるかの持久戦となりそうだ。
「ま、気長に待ちましょうや」
「お前はもっと緊張感を持てよ!」
愛用しているアイマスクを装着し、パトカー内で横になろうとしている沖田に、土方が怒鳴り声をあげる。
だが、それは別の声に遮られた。
「ちょ!下がってください!一般人は立ち入り禁止ですから!」
「大丈夫大丈夫」
「いやほんと大丈夫じゃないですって!」
アイマスクをずらした沖田が声のした方を見ると、数人の隊員と黒い着物を着た若い女が此方に向かってきていた。中には監察の山崎もいて、女の腰を掴んで退けようともがいている。
「危ないですから退がってください!」
「あんたら警察がチンタラしてるからでしょうが。大丈夫、私に任せなさい。あ、君これ持ってて」
女は右手に提げていたスーパーの袋を隊員の一人に渡し、山崎の腕を掴んだ。
そして、涼しげな顔でその腕を引き剥がす。
「づあぁぁぁぁぁぁあッ!!」
山崎が叫び声をあげて、くっきりと手形のついた腕を振り回す。
呆然とそれを見ていた他の隊員に笑みを向け、女は隊員の一人の腰から鞘ごと刀を奪った。
「あ、ちょ!」
「そうだな……十分くらい経ったら突入してきていいよ」
女はそのままバリゲートを飛び越えて、旅館へと走っていった。
「土方さん、止めなくて良かったんですかィ?」
「…………あ」
沖田の声で現実に引き戻されたものの、女は既に旅館の中に消えていた。
「もっと早く言えよォォオ!!」
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