夜に綴る物語
□地球は勿論青かった!
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「じゃーん!」
顎が外れる勢いであんぐりと口を開けている三人に、左手の甲を宙に掲げた。
勿論その薬指には指輪が光っているわけで。
「え……これって……」
神楽の碧眼が揺れた。
「これ、神威がくれたの。……神楽のお母さんの形見なんでしょ?」
「……アイツなら、もう捨てたと思ってたネ……」
「お母さんの形見を名前さんにあげるってことは、本気ってことですよね?」
「……みたいだな」
新八の言葉に、銀さんが頷いた。ただ、神楽だけが納得いかないといった表情をしている。
「神楽、わたし――」
「アイツは家族を捨てたアル」
きっぱりとした口調で放たれた言葉は、ズキリと心に突き刺さった。
「家族を捨てたアイツが、名前を幸せにできると思ってるアルか……?」
「……神楽……」
神楽の言ったことは、分からないこともない。
神威は父親を殺そうとした。病気の母親と幼い妹を置いて家を出た。
神楽はきっと、私を心配してくれているのだろう。
「かーぐら」
俯いている小さな頭を撫でると、神楽がゆっくりと顔を上げた。珍しくシュンとしており、見れば見るほど神威に似ている。
「もし神威が家族なんて必要のないものだと思ってるような奴だったら、私は関わろうとはしなかったと思う。確かに神威がした事は酷い。でも、神威はちゃんとお母さんの形見を持ってたんだよ?少なくとも、神威は冷血な人じゃないと思う」
「……それは、相手が名前だからネ」
神楽はボソリとそう言っていきなり抱きついてきた。それを見ていた男組が、顔を見合わせて笑っている。
「よしよし」
背中と頭を撫でてやると、神楽は愚図るように私の肩に額を押し付けてきた。
然り気無く移動して膝に乗ってきた神楽が、耳元でクスリと笑う声がした。
「……ねぇちゃん……」
「ぇ……」
「ねぇちゃん」
どうやら銀さんや新八にも聞こえていたらしく、私達はきっかり五秒間固まっていた。
ねぇちゃんって……姉ちゃん?
つまり姉?
姉イコール義姉?
私が?神楽の?
――え……じゃあ……。
「神楽ー!」
「うあ!?」
「愛しの我が妹よ!」
「名前、く、苦しいネ!」
神威のプロポーズ時以上のテンションの高さで、神楽に頬擦りをしまくる。
あ、やっぱり女の子って柔らかい。
「けっ、受け入れんのはえェなあ」
「いいじゃないですか、銀さん。晴れて二人は姉妹なんですよ?」
「あんなに兄貴を毛嫌いしてたくせに、名前が入ったらこれかよ。現金な奴だな」
「……ちょっと待ってください」
新八が何かを思い出したように私と銀さんを交互に見る。
苦笑というか、焦っているような表情で。
「名前さんと神楽ちゃんが義理の姉妹なら、銀さんと神威さんは義理の兄弟ですよ!?」
「……うえッ!?マジかよ!?」
「まあそうなるよねえ。既に神威は晋助をお義兄さんって呼んでたよ?」
「えェェェエッ!?」
「ノリノリアルな、アイツ」
「うん」
叫びながら立ち上がった銀さんは、頭を抱えてわめき散らし始めた。
これじゃあ、下からお登勢さんが乗り込んでくるかもしれない。っていうか近所迷惑。
「落ち着きなよ、お兄ちゃん」
「わざとらしく呼ぶのやめてくんない!?寒気がしてきたんだけど!ちょ、名前、今すぐ断ってこい!」
「は?やだよ」
「もう遅いアル。銀ちゃんも潔く諦めるネ」
「いや!名前はやらんぞ!そうだ、ヅラだってきっと反対する!俺を倒した奴にしか名前はやらん、って昔言ってたぞ!」
「事後報告でよくね?てか神威勝つでしょ、余裕で」
「なんだよ、そっちの味方しやがって!もういい!名前なんかもう知らない!」
どこぞのアニメ映画みたいな台詞を吐き捨てて、銀さんが万事屋から走り出ていく。ピシャリと扉が閉められた後、残された私達は盛大に吹き出した。
「酒に逃げたね、アレは」
「ですね。まあ、暫くはそっとしておきましょう」
「銀ちゃんなりの愛情表現アル」
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