夜に綴る物語
□浮気じゃないです、忙しいんです
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やったー!昇進だぜー!と騒いでいたのも束の間で、大量に回ってくる書類に神威は既にやる気を無くしていた。
「おい提督さん、元老が報告書提出しろだとよ」
「阿伏兎書いといて……」
「提督、この書類に判子お願いします」
「阿伏兎お願い……」
「提督!第2師団に取引先とのトラブルが!」
「自分達で解決しろ……」
事務机に顔を伏せた状態で、神威は次々と来る仕事を適当にあしらっている。その八割は阿伏兎に回されていて、正直どちらが提督か分からない。
「神威、私が言うのもアレだけど……仕事しろよ」
「やだ」
おいおいと声には出さずにツッコむ。
仕事熱心な土方さんとは大違いだ。
「やれやれ、この先が思いやられるぜ」
髪をわしゃわしゃと掻きながら、阿伏兎が溜息をついた。
「まあ、こいつには事務仕事は向いてないんだけどな。早いとこ代理でもたてねぇと」
「だねー」
第7師団の団長も続けることになっているし、もっと事務職にぴったりの人を代理にした方がいいだろう。
していたゲームを一旦中断し、革張りのソファから立ち上がる。
「神威」
声をかけて頭を撫でると、首を回して神威が見上げてきた。
「面倒なのは分かるけどさ、武力だけじゃ上には立てないよ?今は引き継ぎ中だから大変だけど、暫くすれば楽になるって」
「……」
「とりあえず今日の分の仕事終わったら、今日は私がご飯作ってあげるから」
「ほんと!?」
ピョコンとアンテナが揺れて、神威が体を起こした。
先程までの死んだ魚のような目とは打って変わって、蒼い瞳が輝いている。
「ほんとほんと。だから頑張れ」
「阿伏兎、その書類貸して」
どうやら効果は絶大のようだ。
「じゃあ、厨房借りてくるから」
「いってらっしゃい」
ブンブンと手を振る神威に手を振り返し、提督室を出た。
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