夜に綴る物語
□共通の敵を持つと何故か絆が深まる
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高杉とは別ルートで、また子と万斉に誘導されながら船内を進む。早く早くと急かす様に、いつもより脈が速い。
処刑場に近づくにつれて、歓声や罵声が入り交じった声が大きくなってくる。
角を曲がると、数十匹の天人の姿があった。
「なっ!?テメェらっ、鬼兵隊の!」
次の瞬間、緑色で牙の生えているその天人の額には、小さな穴が空いていた。
次々とまた子が弾を撃ち、とうとう万斉も刀を抜いた。
「ここは拙者達に任せるでござる!名前殿は先に!」
「分かった!」
あちこちから響く金属音に掻き消されないように、声を張り上げる。
比較的広いとは言え、ごったがえしている廊下は全速力で走る余裕など無い。
――なら……これしかないか……。
一番拓けている場所までの距離を目分量で計り、刀の柄に手をかける。
こんなときに番傘があれば便利なのにと思いながら、角度をつけて跳躍した。
姿勢を低くして、一匹の天人の肩に着地する。
そして、その天人が反応するよりも先に別の天人に跳び移った。慣れてきたところで飛距離を伸ばし、跳び移るついでに天人の頭も蹴飛ばす。
そうこうするうちに次の角に行き着き、空中で一回転して床に降り立った。
「待ちやがれッ!」
私に気づいた後方の天人を一匹斬り捨て、いっきに人口密度が減った廊下を走る。
さっきよりも聞こえてくる声が大きくなり、何故か声を荒げているアホ提督の声も耳に届いた。
船で見た地図を頼りに、複雑に枝分かれしている廊下を進む。
音を頼りに走っていると、更に奥の方から銃声が聞こえてきた。
聞き覚えのある銃声に、動かしている脚が速くなる。
また1つ角を曲がった所で、私はその集団を見つけた。
「阿伏兎ッ!」
名前を叫ぶと、第7師団の中心に立っていた阿伏兎が振り向き、私に気づいて目を丸くした。
「名前じゃねえか!お前も来たのか」
「阿伏兎の方こそ」
傘を担ぎ直した阿伏兎が、得意気に笑う。
「俺は、あのバカを海賊王にするっつー使命があるからな」
「流石副団長」
言い終わると同時に、阿伏兎が私の肩越しに私の背後を撃った。
ドサリと音がして、後ろから来ていた天人が倒れる。
「これじゃあキリがねえ。行くぞ!」
阿伏兎に腕を引かれ、慌てて足を前に出した。
「ねえ!」
「なんだ!」
「阿伏兎達が春雨に刃向かっていいのっ?」
「ああ!団長が昇進すればいいだけだ!」
「成程ね!」
走りながら会話をしていると、前方に四角く切り取られた鉄の扉が見えてきた。
そこが入口らしく、刀を握る手に力を籠める。
「よし、投げろ!」
阿伏兎の声を合図に、団員が手榴弾を扉に向かって投げた。
轟音と熱風が体を包み込んだが、そのまま白煙の中を突っ切る。
「第7師団だッ!」
誰かがそう叫ぶと、天人の群れが雪崩のように押し寄せてきた。
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