夜に綴る物語

□切っても切れないのが腐れ縁
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それは、既に数々の記憶に埋もれてしまった、幼い日のこと。
明日のことなど考えず、ただ今日を生きていた。毎日が楽しくて幸せで、こんな生活が一生続けばいいと思っていた。
大好きな松陽先生と、兄のような三人の少年。みんなと過ごした日々は、長いようで短くて、短いようで長かった。

しかし、月日は無情にも最後をつれてくる。

私は、あの日の炎を命ある限り忘れないだろう。
みんなと過ごした思い出の場所が、みるみるうちに炭と化していった光景を。


「俺があの時正気を保っていられたのは、お前がいたからだ。お前を守るという使命感だけが、俺を突き動かしていた……」

その結果がこれだ、と、高杉が肩をすくめた。

「お前が真撰組にいると知った時は吃驚したぜ。こっち側にいたお前が、政府側についたなんてな」

「……私は鬼兵隊を抜けて初めて、戦争の後の世界を見た」

みんな、笑顔だった。
負けた筈なのに、みんなはそれを受け入れて新しい生活に馴染んでいた。
そして気づいた。
私達が間違っていたのだと。

「高杉が思っているほど、今の日本は酷くないよ。確かに私達が守っている将軍はお飾りだし、悪事を働く天人もいる。それでも、私は今の日本が好き」

高杉は黙って私の話を聞いた後、視線を落として包帯の上から失った左目に触れた。

「俺は忘れられねェ……」

そう言って立ち上がり、扉に手をかけた。

「明日は忙しくなるぞ。精々体力を蓄えておけ」

「……うん」

高杉は後ろ手に扉を閉め、部屋が静寂に包まれた。
立ち上がって窓に近より、冷たい強化硝子に掌をあてる。

「神威……」

神威の蒼い瞳と共に、地球のことが頭に浮かんだ。


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