夜に綴る物語
□切っても切れないのが腐れ縁
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久々に入った懐かしい私の部屋は、本当に私が出ていった頃と何も変わっていなかった。
「まずは小細工しねェとな」
室内を見渡していると、高杉は箪笥を上から順に漁り始めた。
そして下から二番目の段から黒い着物を取り出し、懐から小太刀を抜いた。
「ちょっと、何する気?」
「小細工だ、小細工。そんなとこに突っ立ってねェでこっちに来い」
部屋の中央に腰を下ろした高杉に恐る恐る近寄る。立っているのもアレなので高杉の向かいに正座すると、高杉は私を一瞥して小太刀を抜いた。
「持っとけ」
広げた着物を渡され、指示通りに腕を上げて裾が畳につくぐらいまで持ち上げた。
すると、高杉は小太刀で着物を左肩から前だけ切り裂いていった。
「もういいぞ」
高杉は私から着物を受け取り、次は畳に広げた。
そして、今度は懐から赤い液体が入った瓶を取り出し、栓を抜いて慎重に裂け目にかけていった。
「まあこんなもんでいいだろ」
「これ、本物……じゃないよね?」
「バカか、血糊だ」
「だよね」
納得したところでもう一度部屋を見渡し、また攘夷浪士としての生活を送るのかと思うと胸が痛んだ。真撰組のみんなには散々お世話になったのに、こんな形で離れるなんて酷すぎる。
膝の上で拳を握り締め、視界が曇っていくのを黙って耐えた。この道を選んだのは自分なのに、今更泣くなんてみっともない。
そして何よりも、神威との別れの時が近づいていることが辛かった。
着物に皺が寄るのも気にせず手の力を強めていると、不意に高杉の手が延びてきて、溢れる寸前だった涙を掬いとった。
「泣くんじゃねェよ。ったく、すぐ泣くとこは変わってねェなあ」
「べつに……いつも泣いてるわけじゃない……」
袖で涙を拭い、気を落ち着かせるように深く息を吸って吐いた。
「泣いたのは、本当に久しぶりだから……」
そう言えば鬼兵隊を抜けたときも、自分で出てきたくせに銀さんの所で大泣きした。自分が判断したことが正しいのか分からなくて、ただ涙を流した。
今回も同じだ。
だけど……今回はこれが正しかったと思える最後を迎えたい。
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