夜に綴る物語
□好きは現在進行形です
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意識を失って倒れた名前の体を抱き止める。
「阿伏兎」
「へいへい」
阿伏兎が解毒剤の入った袋を高杉に渡した。
「地球に着くまではこのままにしておいた方がいいよ。たぶん暴れるから」
「だろうな。ま、こいつはその状態でも手に負えねえが」
名前を抱え直して、ぎゅっと抱き締める。
これで最後になるかもしれない。そう思うと、このまま名前を連れて逃げ出したい衝動にかられた。しかし、名前には名前の生きる道があるのだと踏みとどまる。
短い間だったけど、俺に夢をみせてくれてありがとう。故郷に連れて行ってあげられなくてごめん。
ア イ シ テ ル
「団長」
「……うん……」
黙って煙管を吹かしている高杉に近づくと、高杉は懐に入れていた手を出した。
一瞬躊躇ったが、そっと名前を高杉に渡した。
「じゃあ、遠慮なくいただいていくぜ」
「……ああ……」
高杉は自分の羽織を名前に被せ、俺の横を通り抜けていった。
後ろで扉が閉まる音がした瞬間、喪失感がいっきに押し寄せてきて足の力が抜けた。膝をついて、名前の温もりが消えていく手を見下ろす。
「阿伏兎……」
「なんだ?」
「……師匠も師匠なら、弟子も弟子だネ」
「……そうかねェ……」
命を奪うことしかできなかったこの手で、初めて人を愛することができた。
あの日吉原で名前と出会った時から、俺は心から笑うことができるようになった。
初めて見た太陽は、眩しくて暖かかった。
「団長……あんたは鳳仙の旦那とは違うよ」
「……え?」
「あんたと名前は、一緒に歩むことができただろ」
「……そうだね」
深呼吸して立ち上がり、阿伏兎の方に向き直った。
「行くよ、阿伏兎」
「どうせ捕まるんなら、こっちから行ってやるさ」
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