夜に綴る物語

□急にシリアスになるのが醍醐味ってもんだよ
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眠ってしまった名前の長い黒髪を梳く。頭の中では、提督の言葉がぐるぐると回っていた。
確かに鳳仙は日輪に溺れたから身を滅ぼした。
だけど、名前と日輪は違う。名前は強い。身体能力とか力ではなく、精神的な面で。

俺だって、一人の女に心酔してしまうなんて思ってもいなかった。
殺すことしかできなかった俺が、誰かを守りたいと思うのも初めてだ。
馬鹿らしい、無駄だと思っていたこの感情も、今では心地好いものになっていた。

それと同時に、初めて恐怖というものを感じた。名前を失うという恐怖。
もしそうなったら、俺は正気を保っていられるのだろうか……。



「う、ん……」

名前の声で、意識が引き戻された。
名前の睫毛が震え、澄んだ濃紫色の瞳が現れる。

「あれ、神威……」

「ごめん、起こしちゃった?」

「別にいいけど……なんで泣いてるの?」

「……え?」

布団の中から名前の手が延びてきて、白い指が俺の目の下に触れた。その指を伝って、手首へと透明の液体が流れ落ちた。

「あ、れ……なにコレ……」

ゴシゴシと顔をこすると、頬が濡れていた。泣いたのなんて、子供の頃以来だ。
不思議そうに見つめてくる名前を安心させようと、笑顔を作って頭を撫でた。

「なんでもないヨ」

「泣いてるのに?」

「泣いてるわけじゃない」

「……神威、いつもと違う」

頭を撫でていた手を掴まれ、逆に名前に頭を撫でられた。

「何があったの?」

「……ちょっと任務のことでね」

そうは言ったものの、名前の疑いの目はまだ俺に向けられている。
名前の手首を掴み、そのまま引き寄せた。

「名前は何も心配することなんてない」

「でも……」

「いいから寝ようよ」

半ば強引に説き伏せ、俺も目を閉じた。


この幸せな時間は、いつまで続くのだろうか……。


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