夜に綴る物語
□急にシリアスになるのが醍醐味ってもんだよ
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扉が開く音がして、服を畳んでいた手を止めて振り向いた。
「おかえり、神威」
「……ただいま」
何故か、やけにテンションが低い。というより、いつもの笑顔が消えていた。
「どうしたの?」
神威は口を開きかけて閉じ、いきなり抱きついてきた。
勢いあまって、二人してソファの上に倒れた。畳んでいた服が雪崩のように下に落ちる。
「ちょ、神威?どうしたの?」
「……名前……」
耳元で聞こえた声は、心なしか震えているようだった。表情が見えないせいか、不安が襲う。
神威の紅い制服の袖を握り締めた。
「ねえ、何かあったの?」
「……名前は俺と戦いたい?」
「……は?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
確かに神威が侍と戦いたがっているのを、既に何度か聞いていた。もしや、その矛先が私に向けられたのだろうか。
「神威は私と戦いたいの?」
「……嫌」
じゃあ何なんだ、と溜息をつく。
「名前は強いよ。本当に強い。でも、俺は戦いたいと思ったことはない」
「そうですか」
「名前、大好き。宇宙一大好き。愛してる」
「何故このタイミングでそれを言う!?」
嬉しいけれども、どうしてそれを今言うんだ。
神威の肩を掴んで、顔が見えるように押し返した。ゆっくりと持ち上げられた顔は、私の予想に反してまるで表情が無かった。
ただただ、蒼い双眸が私を見据えている。
「……神威……?」
「どうして上手くいかないんだろうネ」
「かむ、い……」
そっと頬を撫でられる。
その手はスライドして、首に指が絡められた。
「初めて……守りたいものができたのに……」
神威の手に力が入れられることはなく、今度は私の手に重ねられた。
「ねえ、ほんとにどうした――」
の、と言う前に、私の口は神威に塞がれてしまった。
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