夜に綴る物語

□居候って楽だよね
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――ピンポーン

インターホンを押しても返事がない。
まあ夜中だから当たり前か。

ピンポーン
ピンポーン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

「だあぁぁぁぁぁぁあッ!!さっきからなんだよ!?嫌がらせですかコノヤロー!」

「あ……出た……」

緑色の寝間着を着た銀さんが、勢いよく戸を開けた。
私を見た途端に、銀さんの眉間に皺が寄る。

「名前!?おい!お前どうした!?」

「説明すると長くなる。とにかく助けて……」

限界だった私は、銀さんの腕の中に倒れこんだ。

「名前!おい!しっかりしろ!名前!」

「もう……無理……」

アドレナリンが切れた、と小さく呟く。
急に体が持ち上げられた。
ブーツを脱がされ、奥へと運ばれる。

「んー……銀ちゃんさっきから五月蝿いネ……近所迷惑アル……」

「おお神楽、いいところに!タオル持ってきてくれ!」

「ああん?銀ちゃんお漏らしでもしたアルか?……って名前ッ!?どうしたアルか!?」

「ああ、大丈夫だよ神楽。これ、私の血じゃないから。ただちょっと……力が入んないだけ……」

押し入れから這い出てきた神楽を安心させようと笑顔を向けた。
神楽は急いで風呂場に走っていって、大量のタオルを持ってきた。

「夜中にごめんね。自分ではどうすることも出来なくて……」

「気にすんな。で、なんだこの血は?」

「ああ……ちょっと暴れちゃってさ」

「はあ!?ったく、お前って奴は……。まあ話は後で聞くとして、まずは風呂と着替えだな」

「はーい。神楽、手伝ってくれる?」

「勿論ネ」

「着替えは昔のやつがあるはずだ。探しといてやる。ほら、神楽パス」

銀さんの腕から神楽の腕へ移動。
女が女をお姫様抱っこ。
なんてシュールな光景なんだ。

軽々と私を抱えて風呂場に向かう神楽を見て、少し笑いがこぼれた。





「さて、説明してもらおうじゃないの」

「はい」

風呂に入ってさっぱりしたところで、私は改めて銀さんと神楽に説明をした。

「今日は屯所に行こうと思ってたんだけど、途中から誰かにつけられてる気配がしたの。で、人目のつかない所で捕まえようとして振り返ったら誰もいなかった。おかしいなーって思ってたら、いきなり後ろから何かの薬吸わされて、気絶して起きたら鬼兵隊の船の中でしたー。みたいな?」

「みたいな?じゃねえよ!」

銀さんのゲンコツが頭に一発。

「つまり、お前は高杉に拐われたんだな?」

「うん。逃げるときに暴れちゃったから、さっきみたいになったの」

「……そうか」

銀さんはそう言って、布団をかけてくれた。
ぽんぽんと頭を撫でられる。

「事情は分かった。もう寝ろ。治るまでここにいていいからさ」

「ありがと」

銀さんに礼を言って、そっと目を閉じた。

しかし、急に心が空っぽになったような感覚が襲ってきた。
暴れた後特有の感覚。

妙にすっきりしない。

殺し足りないからか。
それとも……私には殺すことしか出来ないからか。

「神威……」

神威なら分かってくれるだろうか、このきもちを。

貴方に会いたい。


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