夜に綴る物語

□思い出と過去は基本的に無力
2ページ/5ページ



街の中心に近付くにつれビルが増えてきたので、地上に降りた。
これなら、いつもより早く着きそうだ。
行き交う人々を見ながら、今日も街は平和だと実感する。
このまま、何も起こらなきゃいいのに。
いや、平和すぎたら私達の仕事は無くなるぞ?今以上にバカにされるじゃないか!

「たまにはかっこよく事件を解決したいなあ」

私や総悟がいる時点で無理なわけだが。

あー、そう言や最近暴れてないな。
ていうか、まともな仕事してなくね?

「あー!暴れたい……ん?」

ふと、背後に視線を感じて足を止めた。
振り返りそうになり、慌てて前を向いた。
感覚で分かる。

誰かにつけられてる。

いつからだ?
いや、そんなことはどうでもいい。
それより、このまま屯所に行くわけにはいかない。
今すぐにでも取り押さえてやりたいが、人が多すぎる。
私は一旦路地裏に入ることにした。
店の間を通り、薄暗い路地裏に足を踏み入れた。やはり、誰かが私の後に続いて路地裏に入ってきた。
人影はなく、通りからは見えない。
ここならいくら暴れても大丈夫だ。
そう確信して足を止めた。
腰にさしている刀に手をかけ、さっと振り返った。

……が。

「あれ?」

誰もいなかった。

「気のせい?」

うわ、恥ずかし!
自分バカだろ!
いや、いないならいないでいいんだけどさ!
恥ずかしすぎだろこれは!
総悟がいたら爆笑されるところだよ!

「あは……あはははは……」

逆に笑えてきた。
もういいや、行こう。
まあ、何もなくて良かったじゃないか。
よし、このことは忘れよう。

「……戻るか……」

溜息をついて、通りに足を向けた。


「言っただろ、名前」


いきなり背後から聞こえた声で、体が固まった。


「周りをよく見ろ、ってな」


次の瞬間、何かに口と鼻を塞がれた。
甘ったるい匂いが肺に流れ込む。

マズい。

気付いたときには、もう遅かった。
視界が歪み、手足から力が抜けていく。


「約束通り、迎えに来たぜ」


意識が途切れる直前に、そんな声が聞こえた。

,
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ