青春ドロップ

□高校生にもなれば紫外線には気をつけろ
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期末試験も終わる頃には、神威のいる生活にすっかりと馴染んでしまった。
いつ学校に行っているのかは分からないが、意外なことに家事をしてくれるから助かっている。だが、あの一件以来洗濯だけは私がすると決めた。
梅雨も過ぎ去り、やって来たのは日本特有の蒸し暑い夏だ。そして、夏休みに向けて午前授業に切り替わった。

「暑いなー……」

セーラー服の胸元を引っ張りながら、入道雲が浮かぶ空を見上げる。

「一番暑い時間帯に下校っていうのもしんどいわねえ」

お妙ちゃんも、日傘をずらして空を見上げた。
私も日傘がほしくなってきた。この歳に浴びた紫外線は、後々シミとなって現れるという。

「帰っても誰もいないしやることないから暇アル」

「受験生とは思えない発言キタコレ」

夏は高3にとって戦いの季節なんていう常識はZ組では通用しないと分かっているが、この子は本当に大丈夫だろうか。
そんな私の心配を他所に、神楽はアイスが食べたいとコンビニに向かって歩いていく。
それについては私も賛成だ。冷たいものが食べたい。
自動ドアを抜けて店内に一歩入れば、冷たい空気に体が包まれた。まさにオアシスだ。

「うーん、食べたい物がありすぎて困るアル」

クーラーボックスの中を覗き込む神楽の表情は、テスト中よりも真剣だ。

「新ちゃんの分も買って帰ろうかしら」

「あー、じゃあ、私もかむ……」

お妙ちゃんにつられて神威の分もと言いそうになり、慌てて口を閉じた。

「かむ?」

「いや……カムカムキャンディもほしいなー、って……」

「ああ、あれおいしいわよね」

なんとか誤魔化せたようで、ほっと胸を撫で下ろす。
おやつ用と風呂上がり用と言って、怪しまれないように2つ買うことに成功した。勿論、カムカムキャンディもちゃんと買った。
燦々と降り注ぐ太陽の光からアイスを守るべく、コンビニを出たらみんな足早に自分の家路についた。これは時間との戦いだ。
とはいっても走る元気はなく、いつもより少し速いくらいの速度で歩いて帰れば、案の定マンションにつく頃には容器を触っただけでアイスが溶けかけているのが分かるほどになっていた。

「ただいまー」

「おかえりー」

リビングから顔を覗かせた神威の前髪は、私のお気に入りのヘアゴムで纏められていた。似合っているから悔しい。

「アイス買ってきた」

「わーい」

「でも溶けてるから冷やしてからね」

「えー。期待させといて突き落とさないでヨ」

頬を膨らませながら、神威が引っ込む。
靴を脱いでリビングに入り、神威が見ている海外ドラマの音声を聞きながら冷凍庫にアイスを入れる。

「ねえねえ、夏休み二人でどっか行こうよ」

カウンターの向こうから、神威がキッチンを覗き込んできた。冷蔵庫の中を確認しながら、夏休みのスケジュールを頭の中で組み立てる。

「そんなことしてる暇ないよ。夏期講習あるし」

「ちょっとくらいいいじゃんか」

「受験生は夏が戦いなのー。てかあんたも高3でしょ」

「んー……」

はぐらかすように曖昧な返事をして、神威はふらふらとソファの方に戻っていった。進学するのか就職するのかは知らないが、それまでには家に帰ってほしいものだ。
ビニール袋を畳みながらカムカムキャンディを1つ口に入れ、酸っぱさに口を窄める。久しぶりに食べるが、やはりおいしい。そして、ふとお妙ちゃんが持っている日傘のことを思い出した。私もそろそろ紫外線をブロックするものがほしい。週末にでも買いに行くか、と頭の隅にメモをした。
キッチンを出ると、神威がソファで胡座をかき、食い入るようにテレビを見ていた。

「ねえねえ、この後暇?」

着替えるために部屋に行こうとしていたところに、後ろから声がかけられた。顔はテレビの方を向いたままだ。

「まあ、特には何もないけど」

「じゃあ、一緒にツタヤ行こうヨ。これもうすぐ終わるから」

「んー、分かった」

ならばついでに日傘も買いに行こう、と予定変更をする。
部屋に入ってクローゼットを開け、セーラー服のファスナーを下ろした。
さて、何を着ていこうか。

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