青春ドロップ
□娘の危機ですお母さん
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味噌汁のいい香りがする。
ゆっくりと目を開ければ、キッチンに立っている人の姿が見えた。動く度に、朱色の三つ編みが揺れている。
「……かむい?」
目を細めながら呼んでみると、彼が振り向いた。
「あ、起きた?」
体を起こせば、肩から何かがずり落ちた。見下ろせば、神威の長ランだった。
「ありがと、コレ……」
「うん。じゃあ、おはようのチューしようか」
「うん……って、誰がするかッ!」
本当に近付いてきた神威の鳩尾目掛けて、蹴りを繰り出す。が、あっさりと避けられた。
危ない危ない。寝惚けていた。
尚も迫ってくる神威の肩を、全力で押し返す。神威は何が楽しいのか、ジリジリと近づいてきながらニコニコとしている。
「うんって言ったじゃないか」
「寝惚けてただけです」
「女に二言はなしだよ」
「いや、アリだね」
「ぶー……」
子供のように頬を膨らませる神威。普通の男がすれば気持ち悪いだけなのに、どうしてコイツがするとこんなにもかわいいのか。神様は不公平だ。
「よしよし、いい子だから2、3歩退がろうねー」
「え、やだヨ。いいじゃん、チューの1つや2つ」
「良くねーよ!」
「……もしかして、キスしたことない?」
うっ、と言葉を詰まらせる。
確かに、今のご時世、いろいろと経験済みの子が多い。が、私は何一つ経験していない。
神威は私の反応で分かったようで、ふーんと言いながら、更に笑みを広げた。
「いいこと聞いちゃった」
「ちょ、マジでやめてください!」
「そっかそっか。思う存分名前を俺色に染められるってことだネ」
「はあ!?」
朝からとんでもない発言を続ける神威に、どんどん疲れが溜まっていく。
「もういいです……風呂入ってくる」
「あ、じゃあ背中流してあげるよ」
「なんで自然な流れでついてくるんだよ!」
「え?」
「え?」
反論すれば、何がおかしいんだとでも言うように、神威は首を傾げた。不思議がられても困る。私は間違ったことは言っていない。思わず訊き返してしまったじゃないか。
神威はパチクリと瞬きをし、何か閃いたように手を胸の前で合わせた。
「そっか!名前が先に入って、後から俺が行くっていうことだネ!」
「違う!全然違うよ!来んなってことだよ!」
長ランを押し返し、何か言いかけた神威は無視して、部屋にダッシュした。
下着をタオルで包んでしっかりと抱え、素早く浴室に移動する。
「照れなくていいのにー」
テーブルに肘をついて、神威がのんびりと言った。
「照れてるわけないじゃん!いい?大人しくしててよ!」
最後に念を押し、脱衣所のドアを勢いよく閉めた。勿論しっかりと施錠も。
が、入浴中も背後が気になってしょうがなかったのは、言うまでもない。
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