青春ドロップ
□娘の危機ですお母さん
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チュンチュンと、窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「もー、朝になっちゃったじゃん」
ドアの向こうから、神威の声がした。
「ふざけるなよテメェ……」
「女の子がそんな言葉使っちゃいけません」
結局、一睡もできなかった。
封印していた木刀をクローゼットの奥の奥から見つけだし、それを抱えて一晩中ドアの前で構えていたのだ。
神威を部屋の外に出したのはいいが、懲りずに何度も侵入しようとしてきたため、ずっとドアを挟んで対立している。
こんなことになるなら、ドアに鍵をつけておけば良かった。
「名前ー、何もしないから出てきてよー。俺お腹空いたー」
「知らねえよ!もう家帰れよ!」
「ヤダ。名前と一緒に暮らして、卒業したら結婚して、若いうちに最低三人は子供つくるんだ」
「なにその勝手な人生設計!?結婚とか子供とか、さりげなく巻き込まないでよ!」
「名前との子供は、絶対強くなるだろなー」
「おーい!聞こえてますかー!一人で話を進めないでくださーい!」
「……お腹空いたー」
完全に私の発言は無視されている。
結局一番言いたいことは、お腹が空いたということらしい。
覚悟を決めて、木刀を床に降ろす。
「分かった。朝御飯作るから、何もしないでよ?」
「分かった!」
本当だろうな、と疑いつつゆっくりドアを開けると、満面の笑みで神威が立っていた。
「やっと出てきたね」
「誰のせいだよ……」
小声でそう言い、キッチンに向かおうとしたところで、お互い風呂に入っていなかったことを思い出した。
「朝御飯作ってる間に、風呂入りなよ」
「はーい」
神威は一度私の部屋に戻って、着替えを持って出てきた。
神威が脱衣所に入って、ようやく肩の力を抜く。これで暫くは静かになる。
普段ならまだ寝ている時間なのに、早朝から朝御飯を作ることになるとは。
運悪くパンが切れていたので、わざわざご飯を炊かなくてはいけない。
最悪だ。
こんな日が続けば、そのうちノイローゼになってしまう。
イスに座って、腕枕をする。すると、一晩分の疲れと眠気が襲ってきた。
☆
「あり?」
さっぱりしてリビングに戻ると、名前が寝てしまっていた。
顔を覗きこんでみれば、幸せそうに寝息をたてている。
「かわいいなー……」
このままベッドに運べば、やっぱり怒られるだろうか。
起きてしまった時のことを想像し、仕方なく諦める。
悪戯したくなって、ほっぺたをつついてみた。熟睡しているようで、反応は無い。
(一晩ねばったんだから、ちょっとくらいいいよネ)
少し屈んで、ちゅ、とほっぺたにキスをする。
口にできなかったのは残念だが、まだ時間はあるし、少しずつ進歩していこう。
手にしていた長ランを名前の肩に掛け、まだ湿っているが髪を三編みにする。
「さてと」
朝御飯を作ろう。
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