青春ドロップ
□梅雨は誰でも憂鬱になる
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校門や塀には、お約束のように“夜露死苦”の文字。
窓ガラスには新聞紙やガムテープ。
あちこちに折れた金属バットが落ちていて、隣で笑ってる神威とのギャップに目眩がしそうだ。同じ学区内にあるとは思えない。
「はい、着いたよ。てことで、バイバイ!」
身を翻して逃げようとしたが、二歩目を踏み出すことはできなかった。
セーラー服の首元を引っ張られているような感触がして、恐る恐る振り返る。
「せっかく来たんだからゆっくりして行きなよ」
「この学校でゆっくりできる場所なんてないでしょ!」
「大丈夫大丈夫。俺と一緒なら、誰も手は出さないから」
「いやいやいや!アンタが一番怖いんですけど!?」
神威なら、ニコニコしながら根性焼きとかしそうだ。
「まあまあ、何もしないから」
「するでしょ!絶対何かするでしょ!」
「しないしない。ちょっと空き教室に行って、二人でお話するだけだヨ?」
「するんじゃんッ!殴り合いよりもタチの悪いことしようとしてるじゃんッ!」
「大丈夫、痛くしないから」
「寧ろ痛いことをする方がマシだわ!」
「え、名前ってそういう趣味あるんだ?まあいいよ。俺はどんな名前にでも合わせる自信あるから」
「ちっがーーーうッ!誰がMだっつったよ!」
「じゃあ……女王様?」
「ほんとに合わせようと努力しないでよッ!キモいからマジでッ!」
「もう、SなのかMなのかはっきりしなよ名前」
「どっちでもねェよッ!」
どうして朝からこんなに体力を使わなきゃいけないんだ。早く行かないと本当に遅刻してしまうっていうのに。
「ほんとに駄目だって!遅れるから!」
「我儘はいけないよ、名前」
「我儘はそっちでしょうが!」
神威はまるで私が悪いかのようにやれやれと首を振り、ゆっくりと目を開けた。
海よりも透明で澄んだ蒼い瞳が現れる。
「しょうがない。そこまで言うなら、こっちにも考えがある」
「なにシリアスに言ってんの。そこまで重い話じゃないでしょうに。で、考えとは?」
「……んー……」
「……無いのかよッ!?」
パチクリと瞬きをした神威は、何事もなかったかのようにニコリと笑った。
おっと、こいつの相手をしている場合ではない。
もう8時前じゃないか。
「ごめん神威。マジで遅れるからもう行くわ」
「えー」
「はいはい、さようなら」
もう一度時間を確認し、鞄を持ち直す。
そして、靴下が濡れるのを覚悟で走る体勢を整えた。
「またね、名前」
やけにあっさりと別れの言葉を口に出した神威を不思議に思いつつも、最後に手を振ってから足を踏み出した。
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