青春ドロップ
□梅雨は誰でも憂鬱になる
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四季が美しい日本だとは言うけど、梅雨だけはいらないと思う。
傘をさしていても雨は容赦なく吹き込んでくるし、靴も靴下も言うまでもなく最悪な状態だ。できることなら、今すぐUターンして家に帰りたい。
「はァ……」
何かサボる言い訳がないか、辺りを見渡す。
すると――
「あ……」
「あッ!」
サッと顔を背けた。
花屋の店先に、不釣り合いな黒いものがいた気がするが、幻覚だと自分に言い聞かせて歩くスピードを上げる。
いやー、それにしても今日はいい天気だ!
木々や草花が喜んでるよ!
「ちょっと!あからさまに無視しないでヨ!」
現実逃避に失敗しました。
ガシリと腕を掴まれ、黒いもの、もとい神威が強引に傘の中に入ってくる。しかも、朝に似合う爽やかな笑顔で。
「久しぶり、名前」
「……お久しぶりです……」
「アハハッ!照れちゃって、かわいいなあ」
「どこに照れる要素があったのッ!?」
「嘘嘘、冗談だよ。じゃあ、ホテルでも行こっか」
「映画でも行く?的なノリで、朝から何言ってんのッ!?ていうか濡れるから!どさくさに紛れて近づかないでよ!」
逃げようにも、傘の内では思うように動けない。
この窮地をどう切り抜けようか。
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。俺傘持ってなくてさ、急に降りだしたから困ってたんだ」
「それで、私にどうしろと?」
「うちの学校まで一緒に来て」
何様だ、コイツは。
しかしこのまま雨の中放っておくのは良心が痛むし、何より一日中頭から離れなさそうだ。
夜兎工はそんなに離れてないし、今から急げばなんとか間に合うかもしれない。
「……しょうがないなあ。今日だけだよ」
「やった!相合い傘!」
テンションの高さについていけず、出るのは苦笑いだけだった。
朝からとんでもない拾い物をしてしまった。
一人喜んでいる神威が、私の手から傘を取る。
「俺が持つネ」
するとグイッと引き寄せられ、傘から少し出ていた肩が納まった。いきなり紳士的なことをするものだから、意識しなくてもドキリとしてしまう。
そんなことは知らず再び歩きだした神威に、遅れないようについていく。
その後考えていたのは、あの長ランはどこで買ったのだろうということだけだった。
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