青春ドロップ

□梅雨は誰でも憂鬱になる
1ページ/6ページ



四季が美しい日本だとは言うけど、梅雨だけはいらないと思う。
傘をさしていても雨は容赦なく吹き込んでくるし、靴も靴下も言うまでもなく最悪な状態だ。できることなら、今すぐUターンして家に帰りたい。

「はァ……」

何かサボる言い訳がないか、辺りを見渡す。
すると――

「あ……」

「あッ!」

サッと顔を背けた。
花屋の店先に、不釣り合いな黒いものがいた気がするが、幻覚だと自分に言い聞かせて歩くスピードを上げる。
いやー、それにしても今日はいい天気だ!
木々や草花が喜んでるよ!

「ちょっと!あからさまに無視しないでヨ!」

現実逃避に失敗しました。
ガシリと腕を掴まれ、黒いもの、もとい神威が強引に傘の中に入ってくる。しかも、朝に似合う爽やかな笑顔で。

「久しぶり、名前」

「……お久しぶりです……」

「アハハッ!照れちゃって、かわいいなあ」

「どこに照れる要素があったのッ!?」

「嘘嘘、冗談だよ。じゃあ、ホテルでも行こっか」

「映画でも行く?的なノリで、朝から何言ってんのッ!?ていうか濡れるから!どさくさに紛れて近づかないでよ!」

逃げようにも、傘の内では思うように動けない。
この窮地をどう切り抜けようか。

「まあまあ、そんなに怒らないでよ。俺傘持ってなくてさ、急に降りだしたから困ってたんだ」

「それで、私にどうしろと?」

「うちの学校まで一緒に来て」

何様だ、コイツは。
しかしこのまま雨の中放っておくのは良心が痛むし、何より一日中頭から離れなさそうだ。
夜兎工はそんなに離れてないし、今から急げばなんとか間に合うかもしれない。

「……しょうがないなあ。今日だけだよ」

「やった!相合い傘!」

テンションの高さについていけず、出るのは苦笑いだけだった。
朝からとんでもない拾い物をしてしまった。
一人喜んでいる神威が、私の手から傘を取る。

「俺が持つネ」

するとグイッと引き寄せられ、傘から少し出ていた肩が納まった。いきなり紳士的なことをするものだから、意識しなくてもドキリとしてしまう。
そんなことは知らず再び歩きだした神威に、遅れないようについていく。

その後考えていたのは、あの長ランはどこで買ったのだろうということだけだった。


,
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ