青春ドロップ
□委員会とか正直どうでもいい
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ふわぁ、と通算11回目の欠伸。
ザキがちゃんとモーニングコールをしてくれたお陰で、なんとか時間に間に合った。が、眠くて眠くてしょうがない。
「総悟、目が覚めることしてよ」
すると、総悟は驚いたように目を丸くし、恥ずかしがるように視線を逸らした。
「そんな……名前、朝っぱらからやるんですかィ?」
「うん、あんたが何を想像しているのかは深く追求しないでおこう。取り敢えずさ、赤パン一丁でラジオ体操踊ってよ」
眠さのため、総悟にツッコむ元気はない。
総悟はつまらなさそうに元に戻った。
「どんな趣味してんでさァ。それと、俺は今日は黒パンでィ」
「いらないよ、そんな情報。あー、爆笑したら目が覚めると思ったのにー」
風紀委員のあいさつ運動用の旗を支柱にして、校門にもたれ掛かる。
私今立ったまま寝れる。
「寝るんじゃねェ。しゃきっとしろィ、しゃきっと」
「うーん……」
目を閉じれば、夢の世界に今にも飛び立ちそうになる。
「名前……首輪つけてやろうか?」
が、不吉な言葉が聞こえたので、急いで目を開けた。
「あー、なんか元気出てきたなあ」
「遠慮しなさんな。ほれ、この中から選びなせェ」
校門に立て掛けていた鞄の中から、総悟があらゆる種類の首輪を取り出した。
「なんでそんなに持ってきてんの!?」
「男として当然のたしなみでさァ」
鎖の音を響かせながら、総悟が気味の悪い笑みを浮かべる。
「男としてじゃなくてドSのたしなみでしょそれ!」
旗を前に構え、さも当然のように差し出された数種類の首輪を必死で拒絶する。
「ほんとにいいから!もうこのやりとりで目覚めたから!」
「ほれ、かわいくピンクのもありやすぜ?」
「首輪にかわいさなんか求めてません!いいからしまって!」
「ちぇッ、つれねえなぁ」
ようやく引き下がった総悟を見て、胸を撫で下ろす。
朝から私は何をやってるんだろう……。
「お、おはよう……ご、ございま……す……」
一年生だと思われる生徒が、怯えながらも律儀に挨拶をして通っていった。
「おはようございます!」
少しでも安心感を与える為に、とにかく明るく返す。
「名前、なんですかィ?その挨拶は。まるでアイドルの握手会じゃねえか」
文句を言ってきた総悟を横目で見る。
「私だって好きでこんなことしてるわけじゃないのよ!」
駄目だ。総悟と話しちゃ駄目だ。精神的にダメージを受けてしまう。
そうだ、挨拶に集中するんだ名前!
「おはようございまーすおはようございまーすおはようございまーす」
「……お前、適当すぎだろいィ」
「自分でもそれくらい分かってるよ!」
「逆ギレするんじゃねェよ!」
子供みたいな会話を繰り広げ、更に生徒達から避けられていく。
何が楽しくて後輩にまで頭下げなきゃいけないんだ、と開き直り、旗を振り回す。
「あー、こんなこと考えた近藤のバカマジ死ねー」
おっと、いつの間にやら本音が口に出てしまった。
「まあいっか、別に本人いるわけじゃな――」
「うっ……ぐす……」
「い……」
嗚咽のような声が聞こえてきた。まるでホラー映画だ。
「名前、後ろ見てみなせェ」
「後ろ?」
そっと振り返ってみると、そこには――必死で嗚咽を噛み殺している近藤君がいた。
「……あ……」
「うぅ……うわあああああん!」
私が見ていることに気付くと、近藤君はそのまま逃げるように校舎に走って行った。
「近藤くぅぅぅぅうん!」
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