宵闇に隠れし君の心

□峰
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出発する前から疲れきっているが、一子と二子プラス老人一人を連れて、ぽっくり百貨店へと足を運んだ。
双子が勝手に走り回らないように、私が一子を、白澤が二子を抱いて店内に入る。二子は白澤の腕の中で不服そうな表情をしているが、どうか耐えてもらいたい。

「最近の子供服ってこんな感じなのかー」

白澤は子供服売り場は初めてらしく、一子と二子以上にあちらこちらを見回している。
私は私でいくつも並んでいる子供服の店を一通り眺め、二人に合いそうな雰囲気の店を探した。そこで目に付いた店の一つに入る。

「白澤、こっち」

遅れている白澤を呼び、早速並んでいる服を順に見ていく。
和服と洋服に分かれているが、今回の双子の要求は洋服だ。要求はされたが、どんな感じがいいかと訊いても二人はかわいいのとしか答えないため、私に責任がかかっている。
本当に、最近の子供服は大人顔負けのデザインが多い。種類も豊富でなかなか選ぶことができない。
ふと目にとまった、シンプルだが襟や袖がかわいらしい白のブラウスを手にとった。色違いで黒もあるし、二人にいいかもしれない。

「あ、それ今人気があるんですよー!」

突然、横から店員が声をかけてきた。
その店員が、手早く近くにかかっていたシフォンスカートのハンガーを取り、私の持っているブラウスの下に合わせる。

「こういうスカート合わせると女の子っぽくてかわいいんですけど、ショートパンツやデニムのパンツと合わせてもいいんですー!」

「はあ、成程……」

確かにかわいらしい。
一子も食いついたようにブラウスの袖を持った。

「んー?なになにー?」

店の中を彷徨いていた白澤が戻ってきて、反対側から覗き込んだ。

「あ、かわいいね」

「あらー、お父さんも気に入られましたかー?」

お父さんという単語に、白澤と顔を見合わせる。
ようやくその意味を理解し、慌てて首を横に振った。

「違います違います!」

「パパはこれがいいと思うなあ。ねー?ママ」

あろうことか、白澤は否定するどころか流れにのってきた。
何がママだ。
訂正するのも面倒なので、半ば諦めて店員に服を渡した。

「じゃあ……これを……」

「ありがとうございますー!」

店員が後ろを向いたのを確認し、踵を白澤の足の小指めがけて踏みおろした。

「ぐあッ!」

調子に乗るなよ、と視線を送ると、白澤は壊れたロボットのようにすごい速さで何度も頷いた。
支払いを済ませるため、嫌がる一子を強引に引き剥がして白澤に預ける。慣れた手つきでレジを打ちながら、店員は尚も口を動かし続けた。

「いいですねー、家族でお買い物。うちも小さい娘がいるんですけど、旦那は休みの日もダラダラしてばかりで困ってるんですよー」

「それは、大変ですね……」

「出掛けたとしても、男は待つのが嫌いですからねー。本当に羨ましいですー。えー、合計で1万と、1560円になります」

巾着から財布を出し、1万円札と2千円を渡した。
お釣りを受け取り、服が包まれるのを待つ間、なんのけなしに振り向いてみた。さっきまではいなかった親子連れが一組み、服を見ている。母親が手にとった物を女の子の前にあわせ、なんでも似合うなと父親が嬉しそうに見ている。どこからどう見ても幸せそうな、本当の家族だ。

「お待たせしましたー」

いつの間にか店員がレジを出て隣に立っていた。かわいらしいロゴの入った紙袋を受け取り、店の外で待っている3人の所へ向かう。
白澤は両側から双子に攻撃され、数分のうちに随分と疲れてしまったようだ。

「名前ちゃーん、助けてー……」

「はいはい」

一子と二子をまとめて受け取り、代わりに紙袋を白澤に渡した。

「さてと、まだまだこれからだからね」

そう言えば、わー、と小さな拳を突き上げる双子とは反対に、白澤は苦笑した。
荷物持ちなんだからしっかり、と声をかけ、次の店へと足を向けた。

偽物でもいい。
白澤にはああ言ったが、周りから親子に見られているのかと思うと、記憶の底に追いやっていた儚い夢が叶ったようで嬉しかった。

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