宵闇に隠れし君の心

□桃
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二人で薬膳鍋を食べて鬼灯様が注文していた物を受け取り、帰り支度を始める。

「えー、デート行こうよデート!」

「悪いけど、仕事がまだ残ってるから」

休日のため白澤はデートに行く気満々だったようで、私を引き留めようと抱きついてみたり腕を引っ張ったりと、とにかく邪魔をしてくる。
受け取った薬草類を風呂敷で包みながら、擦り寄ってくる白澤を振りほどいた。

「仕事なんか鬼灯のヤツに任せればいいじゃないかー」

「そんなことできません」

「今日は一日僕に付き合ってよ」

「むーり」

きっぱりと断ると、白澤が情けない声を出す。床にいた兎を抱えて椅子に座り、白澤は本格的に拗ね始めた。

「せっかく名前ちゃんとのデートのために店も休みにしてどこ行こうか考えてたのにさ……」

自分よりも遥かに年上、しかも男のその言動に哀れみの目を向ける。

「いいよ、どうせ名前ちゃんにとっては僕よりも仕事の方が大事なんだ……」

「うわー、面倒くさい……」

私は視線を落とし、変わらない声音で続けた。

「……女の子なら、他にもいるでしょ」

そう言った時の私の感情を、彼は知らない。
いくら付き合いが長かろうと、私も他の女達と変わらない遊び相手なのだ。

「だーかーらー、名前ちゃんがいいんだって」

白澤がそう言ってくれるというのは予想がついていた。ずる賢い手を使ってでも白澤からその言葉を聞きたくて、わざとらしく他の女のことを口に出す私は本当に馬鹿だ。

「はいはい、また今度ね」

「今度っていつ?」

「さあ」

「またそうやって先延ばしにする」

はっきり言って女々しいが、私は案外白澤のこういうところが好きだ。
機嫌をとろうと、椅子に座って私よりも低い位置にいる白澤に口付ける。
白澤は私の頬を撫でると、さっきまで拗ねていたのが嘘のように笑みを浮かべた。

「もう、名前ちゃんには勝てないなあ」

白澤は兎を床に降ろして立ち上がった。

「仕方ない、今日のところは諦めるよ。門まで送る」

白澤は自然な流れで風呂敷包みを持ち、店の出入口に向かった。
ちょうど仙桃の収穫を終えて帰ってきた桃太郎君に挨拶し、白澤の背中を追いかけた。


☁D☁



閻魔殿に戻ると、既に仕事部屋で一人鬼灯様が仕事をしていた。

「おはようございます」

「おや、おはようございます」

私が入ると、鬼灯様は判子を片手に顔を上げた。

「遅くなって申し訳ありません」

「いえ、今日は休日なんですから、ゆっくりしてきても良かったんですよ?」

「私よりも鬼灯様がお休みになってください。私は昨日定時にあがらせていただいたので」

昨夜も遅くまで仕事を続けていたのだろう。鬼灯様の顔には疲れがにじみ出ていた。
鬼灯様の手元にあった書類の束を持ち上げ、私の机に移動させる。

「残りは私がやっておきますから、鬼灯様はお休みになってください」

「そうですか……。では、お言葉に甘えて」

鬼灯様は判子を仕舞い、立ち上がった。

「二度寝するとしますか」

「はい。あと、これは頼まれていた者です」

薬草が入っている箱を、鬼灯様に渡す。

「ありがとうございます」

「新しい薬草が手に入ったといっても、研究はまた今度にしてくださいね」

「そう言われては、しようにもできませんね」

本当にするつもりだったらしく、鬼灯様は肩をすくめた。
そして、何か思い出したように、ああと呟いた。

「名前さん宛に郵便物が届いたので、そこに置いておきました」

「郵便物?」

見れば、さっきは気付かなかったが机の上に白い大きめの封筒が置かれていた。

「ありがとうございます」

「大したことではありません。後はお願いします」

「はい」

鬼灯様を見送り、封筒を手に取る。
裏返してみれば、差出人の住所が書かれていた。
流れるような見覚えのある字に、高天原という単語。嫌な予感しかしない。
恐る恐る開いてみると、中からまず一枚の写真が出てきた。
そこに映っていたのは、神だと思われる一人の男だった。

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